在宅者にも負担限度額軽減制度の導入が必要では〜日本医師会会長「金融資産も考慮した応分の負担を」

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在宅者にも負担限度額軽減制度の導入が必要では〜日本医師会会長「金融資産も考慮した応分の負担を」

「多くの金融資産を持つ高齢者は応分の自己負担を」 医師会長、財務省案に賛意

高齢者の自己負担をどうするか? この分野では今年最大の焦点の1つと言える。

日本医師会の横倉義武会長は8日の記者会見で、「金融資産などを多く保有する方には応分の負担を求めることも必要だと考えている」と言明した。「金融資産が相当ある方が1割負担でいいのか、ということは検討すべき。負担できる方の負担率は徐々に上げていかざるを得ないだろう」とも述べた。

高齢者は現役世代と比べ、平均的に所得水準は低い一方で貯蓄額は多い。たとえ収入が少なくても、かなりの金融資産を抱えていて生活に余裕のある人もいる。

ただ現行の制度は、これらを総合的に捉えて個々の負担能力を精緻に判断する仕組みになっていない。このため財務省などは、「医療保険・介護保険の負担全般について、所得のみならず、金融資産の保有状況も勘案する具体的な制度設計を検討すべき」と注文をつけている。

横倉会長は会見で、「我々は日本の財政が厳しい状況にあることを理解している。引き続き低所得者に十分配慮したうえで、金融資産などを考慮に入れて負担を求める仕組みの導入を進めるべき」と表明。財務省などの案を基本的に支持する姿勢をみせた。

夏の参院選が終わったあと、この議論は一気に加速して具体性を帯びていく可能性が高い。厚生労働省は介護保険について、2021年度からの自己負担のあり方を年内にも固めるスケジュールで調整を進めている。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg581.html

高齢者の自己負担、金融資産なども考慮に入れる方向に?

2019年4月23日に開催された財務省の財政制度審議会分科会のなかで社会保障についての議論が行われたが、5月8日の記者会見で日本医師会の横倉会長も、社会保障の応分負担を求める必要があると意見を述べた。(*1)

(*1)「令和」の幕開けと財政審の議論について | 日医on-line
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/008589.html

横倉会長は、社会保障と経済は相互作用の関係があり、経済成長が社会保障の財政基盤を支え、社会保障の発展が経済を底支えしている。社会の格差が拡大しないよう社会保障を充実させ、経済成長を促すような取組みを進めていかなければならないとも発言した。

財務省の改革の方向性は、

  • 介護保険制度の応分負担とは利用者の負担割合を原則1割から2割とする。
  • 在宅と施設で暮らす者の負担の公平性を確保するため、利用者の宅地等を資産要件に追加、預貯金等の基準要件の見直しをする。
  • 在宅と施設で暮らす者の負担の公平性を確保するため、施設の多床室の室料相当額を基本サービス費から除外する。

などである。(*2)

(*2)財務省「社会保障について」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310423/01.pdf

在宅者だと負担軽減制度の恩恵を受けにくい現状も

確かに、在宅者は食費と居住費の負担軽減制度の恩恵を受けていない。実際には低所得者ほど入所に掛かる費用支払に抵抗があり、在宅で日中独居のような生活をしている者もいる。

私が担当したA氏のケースでは、日に2度の出来合いの食事と、週に1度の入浴(デイサービス利用時)といった生活環境の中、褥瘡(じょくそう)と廃用症候群・手足の拘縮などがみられた。A氏の家族(長男)に、施設入所の提案をしたことがあるが、「月に1万円しか余裕はない」と断られたことがある。

施設に入所すると低所得者の負担軽減制度があると伝えたが、それでも1ヵ月の入所費用の基本報酬分を支払うことができないとの返答であった。
自治体により、更に自己負担限度額の申請もできるとケアマネと共に何度も足を運び伝えたが、その後の1年間は在宅で同様の生活をしていた。

結果、それまで這って自宅内を移動していたが、ある日布団から起き上がることもできなくなり、全身機能低下で入院となった。
退院後は自宅に戻らないようにケアマネと病院のMSWで入所施設を探し、これまで関わりの無かった長女がキーパーソンとなり、無事入所生活を送るようになったと聞かされた。

このA氏のようなケースの場合、在宅で食費と居住費の負担限度額軽減制度があったなら、A氏はデイサービスでかかっていた食費などの費用を軽減でき、浮いた分でサービスを週2回に増やす、もしくは訪問介護を利用できていたはずだ。

先の見えない介護に対する不安を少しでも軽減できれば…

財務省が要件の見直しを求めている経済力のある利用者の負担軽減がなくなり、A氏のような在宅で必要なサービスを受けられない利用者の食費と居住費に充てる事ができるのなら、財務省の提案にも賛成である。

しかし、負担割合が基本2割になってしまうのでは、A氏のような利用者は減らないと考える。

実際、資産のある利用者が世帯分離を行って独居世帯になり、預貯金などの資産を息子名義などに変更して負担軽減制度を利用している者もいる。これらの家族の真意は、あと何年入所生活が続くかわからない利用者の入所費用を、残った本人の預貯金などで賄えるか心配なのである。

月に10万円の入所費用が掛かるとして、年間120万円。10年で1,200万円だ。1,000万円以上の預貯金のある者は資産基準額に該当しない。(単独世帯の場合)

先の見えない介護とは、家族に心理的な不安を与える。子供のように、あと何年で成人して親の手を離れるといった見通しがないのだ。国の社会保障費を押さえることも大切だが、親族を介護する側の気持ちも汲みとっていかなければならない。

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