訪問介護事業者の倒産件数が全体の42.2%に〜人員要件の見直しが課題

更新日:
訪問介護事業者の倒産件数が全体の42.2%に〜人員要件の見直しが課題

介護事業者の倒産、昨年は106件 人手不足や競争の激化で高止まり

東京商工リサーチは11日、昨年の介護サービス事業者の倒産が106件にのぼったと明らかにした。
100件を超えるのは3年連続。7年ぶりに前年(111件)を下回ったが、依然として高い水準にとどまっている。

深刻な人手不足や競争の激化が背景にある。今年度の介護報酬のプラス改定(全体で0.54%)は相応のインパクトがあったが、倒産の動向にどこまで影響を与えたかは判然としない。東京商工リサーチはレポートの中で、「倒産件数は高止まりの状況。淘汰の動きが加速している」と分析。人件費の上昇に歯止めがかからず、経営環境がさらに厳しくなっていく可能性も指摘した。

昨年度の倒産を業種ごとにみると、「訪問介護」と「通所介護・短期入所介護」の2つで8割超を占めている。「訪問介護」が45件、「通所介護・短期入所介護」が41件だった。いずれも大半は規模の小さな事業者となっている。

つぶれる前に撤退するところも多いとみられる。例えば訪問介護。厚生労働省の「介護給付費等実態統計」によると、直近の昨年6月の請求事業所数は3万3143件。1年前の2017年6月と比べて175件少ない。地域密着型を含む通所介護も同じ期間に96件減少。事業所数が右肩上がりに増えていく時代もあったが、もはや過去の話となっている。

□有料老人ホームの倒産、2.3倍増

昨年の106件の倒産のうち有料老人ホームは14件だった。前年の2.3倍と増加が目立っている。東京商工リサーチは、「競争激化で入所者の確保に苦慮する事業者の破綻が目立った」と説明。「経営基盤の脆弱な事業者を中心に『ふるいわけ』が進んでいる」としている。

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg314.html

訪問介護事業者の倒産が全体の42.4%

東京商工リサーチによると2018年の介護事業者の倒産が106件あり、なかでも訪問介護事業者の倒産が45件と一番多い結果であったとしている。
特に設立から5年以内で従業員数5人未満の小規模事業者の倒産が目立つ。(*1)

(*1)2018年「老人福祉・介護事業」倒産状況、倒産件数が106件、7年ぶりに前年を下回るも高止まり:東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190111_01.html

しかし訪問介護事業者の設立件数は増加傾向である。(*2)
厚生労働省の2018年度の統計結果が出ていないので一概には言えないが、前年の厚生労働省の調査結果によると、活動中の訪問介護事業所の数は2017年が35,311件で、2016年の35,013件より298件(0.9%)増加している。

(*2)平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況 施設事業所の状況:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/dl/kekka-gaiyou.pdf

訪問介護事業に参入しやすい反面、運営のハードルが高い

では東京商工リサーチが調べた2017年の訪問介護事業者の倒産件数と比較してみよう。
倒産件数44件・事業所の増加件数298件であり、倒産件数より開設活動中の事業者の方が6.7倍ほど多いことが分かる。

また、訪問介護の1事業所の平均利用者数は34.5人(*3)で利用者の数も安定していると思われるが、総数100に対して「利用者なし」の事業者が4.1%に上る。

(*3)厚生労働省平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況 居宅サービス事業所等の状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/dl/kekka-gaiyou_02.pdf

この4.1%の事業者が倒産予備軍であると予測するが、何故「利用者なし」なのかこう考える。
訪問介護事業は開設基準が比較的安易であるため参入しやすいが、利用者の獲得が難しいのが現状だ。

設備基準では事務所・相談室・手洗い場の設置、人員基準では常勤の管理者(サービス提供責任者との兼務可能)・常勤のサービス提供責任者・ヘルパー2.5人以上(利用者40名以下の場合で常勤換算にて算出・サービス提供責任者を含めることも可能)を揃えれば開設できてしまうため、訪問介護のことを良く知らずに開設すると落とし穴がある。

職員の獲得と利用者の獲得に障壁が

利用者の獲得で障壁になるのがヘルパーの移動時間(距離)と同一時間帯のニーズだ。
ヘルパーの移動中は無報酬であるため、利用者の自宅が事務所から遠方になればなるほど赤字が生まれる。

そして利用者のサービス利用希望時間帯が重なるため最低3人で開設した場合、同一時間帯に訪問できるのは2件までだ。
特にニーズの多い朝・夕の時間帯だけ2名が頑張って訪問したとしても報酬はたかが知れている。

ニーズの多い同時間帯に対応するためスポットで訪問するパート職員を増やすことをしても良いだろうが、どの事業所も不足している時間帯の人材を見つけるのは容易なことではない。
そのため常勤換算で2.5人に見合うようにさまざまな時間帯で利用してくれる利用者を探さなければならないが、知名度も実績も低い開設したばかりの事業者では営業に走り回ったとしてもすぐに安定することはないであろう。

現状の人員要件に課題

こうして利用者の獲得が上手くいかないまま「利用なし」で倒産していく訪問事業者が多いと考える。
開設して間もない事業者の場合は人員要件を緩和すれば、倒産する訪問介護事業者の数は減少するはずである。

質の良いサービスとは提供内容に加え、臨機応変に対応できるということも含まれなくてはいけない。
そのためには多くの訪問介護事業者が必要であり、特に風通しの良い小規模の事業者は貴重な存在であるはずなのに、倒産してしまうのは残念でならない。
自宅で最期まで暮らしたい利用者の気持ちを第一に考えた運営要件を望む。

Designed by Freepik