「ADL維持等加算」の算定要件の課題と改善点について

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「ADL維持等加算」の算定要件の課題と改善点について

通所介護のアウトカム評価、来年度から見直し検討 厚労省 課題を調査へ

厚生労働省は2021年度に控える介護報酬改定を見据え、通所介護のアウトカム評価「ADL維持等加算」の見直しに向けた検討を来年度から始める。日々のサービスに与えている影響、現状の課題などを把握するための詳細な調査を、民間のシンクタンクと連携して実施する。4月から具体的な準備を始めていく。来年3月に明らかにされる結果は、2020年度から本格化する改定をめぐる議論に大きな影響を与えることになる。

13日の社会保障審議会・介護給付費分科会で説明し、委員から大筋で了承を得た。今後、専門家とともに協議を重ねて事業所へ配る調査票を8月までに作成し、9月にも実施に踏み切る計画だ。老健局の担当者は、「次の改定に向けて大きく議論していく」と述べた。

通所介護の「ADL維持等加算」は、2018年度の改定で創設された新しいインセンティブ。評価期間の中で利用者のADLを維持・改善させた度合いが一定のレベルを超えている事業所が、次の年度に少し高い対価を得られる仕組みだ。自立支援や重度化防止につながるサービスの展開を促していく目的で導入された。

政府はこうした施策の方向性をさらに推進していく構えをみせている。官邸で主導する「未来投資会議」の昨年末の報告書には、「介護事業者に対するインセンティブ措置の強化を検討する」と明記した。健康寿命の延伸を最重要視する厚労省も、今年夏に打ち出す新たな計画(健康寿命延伸プラン)に「介護報酬上のインセンティブ措置の強化」を盛り込む方針だ。

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg365.html

ADL維持等加算の見直しに向けた検討

2019年2月13日に行われた社会保障審議会(介護給付費分科会)で、平成30年度の介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(2019年度調査)の実施内容(案)が公表された。(*1)

(*1)平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(2019年度調査)の実施内容について(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000479814.pdf

その中に平成30年度の介護報酬改定で新設された通所介護サービスのアウトカムを評価する「ADL維持等加算」について、申出から算定に至る過程やアウトカムの評価等について検証を行い、課題や改善点を検討するとしている。

この「ADL維持等加算」の課題と改善点を考えてみたい。

「ADL維持等加算」の算定要件に疑問

まず「ADL維持等加算」の算定要件(*2)に改善が必要だと考える。

(*2)介護保険最新情報「ADL維持等加算に関する事務処理手順及び様式例について」の公布について
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0603/documents/6482.pdf

算定要件のひとつに、「要介護3~5の利用者が15%以上」とある。
この加算の目的は自立支援・重度化防止のためであるが、これに要介護度は関係するのだろうか。

年々歳を重ねる高齢者にとってADL(身体機能)の維持・向上は介護度に関わらず大変な事である。
しかし、要介護3~5の者が何人サービスを利用していようと関係ないのではなかろうか。

それとも国は要介護3~5の者の方が維持・改善の見込みがあると考え、加算を算定する事業所が増えるようにあえて要介護度3~5を要件に設定したのだろうか。

だとしたら、既にある「中重度者ケア体制加算」の算定要件を要介護度3~5の者30%から15%へ引き下げた方が事業者思いである。
なぜなら「中重度者ケア体制加算」は45単位/日であり、「ADL維持等加算」Ⅰの3単位・Ⅱの6単位とは比べ物にならない単位数だからだ。

本当に必要な人が使える仕組みに改善を

また、「ADL維持等加算」の算定要件にある12ヶ月以内に初めて要介護度の認定を受けたものが15%以内というのも変な要件である。
初回認定であろうが、更新者であろうが、ADLの維持・向上には関係のない話だ。

これでは新しく要介護認定を受けた利用者の行き場がなくなってしまう。
それを見据えて単位数が低く設定されているとも考えられるが、一体国は「ADL維持等加算」をとらせたいのか、とらせたくないのか、全く理解ができない。

独立行政法人福祉医療機構が平成30年7月19日~8月7日に行ったWebアンケート調査(*3・P6)によると、
実際に「ADL維持等加算」を算定している事業所は全体の1.1%に過ぎなかったとしている。

(*3・P6)平成30年度介護報酬改定の影響に関するアンケート調査の結果について 独立行政法人福祉医療機構
https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/181105_No005.pdf

来年度の算定を目指して評価に取り組んでいる事業所まで含めても約2割との結果だ。
しかし再来年以降の算定予定は1/4の事業所が算定の意向を示したとのこと。

これにより、12ヶ月未満の初回介護認定者や要介護1~2の者の利用できるサービスが減少しないことを祈りたい。
誰もが安心してサービスを受けられる算定要件にすることが、「ADL維持等加算」の課題ではないだろうか。

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