
財務省、訪問介護の生活援助を狙い撃ち 独自の支給限度額の設定を注文
2021年度に控える次の制度改正も見据えて具体的に検討していくべき − 。そう注文をつけている。
財務省は23日、財政健全化に向けた議論を行う審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)の会合を開き、給付費の膨張が続く社会保障制度の見直しを俎上に載せた。
介護の分野では、これまで繰り返し“適正化”を訴えてきた訪問介護の生活援助を今回もやり玉に挙げている。要介護2以下の高齢者を対象としたサービスについて、市町村がそれぞれ運営している総合事業へ移行させることに加えて、独自の支給限度額の設定、あるいは利用者負担の引き上げによって給付をカットするよう提言した。
まるで家政婦のように都合よく使われ自立支援に寄与していない、という問題意識を持っている。来月にもまとめる政府への意見書(建議)に盛り込む方針だ。
政府・与党は次の改正の中身を今年の年末までに固める計画。厚生労働省の審議会には財務省の考え方を支持する委員がいる。一方で現場の関係者らは反発の声を上げるとみられ、この論点がまたしても大きな注目を集めそうだ。
□「要介護2以下は小さなリスク」
「小さなリスクはより自助で対応することとすべき」
財務省は今回そう強調。要介護2以下を「軽度者」と定義づけるとともに、「状態の軽重にかかわらず同じ保険給付率となっている制度を改めるべき」と求めた。
具体策では生活援助の給付カットだけでなく、要介護2以下を対象とした通所介護を総合事業へ移すことも改めて要請している。
要介護2以下、総合事業への移行を要請
2019年4月23日に開催された財政制度分科会において、財政健全化に向けた議論の中で社会保障制度の今後の主な改⾰の⽅向性について「要介護1・2の⽣活援助サービス等の地域⽀援事業への移⾏・利⽤者負担の⾒直し」との提言があった。(*1・P76)
(*1)財政制度分科会「社会保障について」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310423/01.pdf
これまでも要支援1および2の者の訪問介護と通所介護を、予防給付から「介護予防・日常生活支援総合事業」へ移行してきたのだが、給付費の膨張が続いていく2040年を見据えて、更に要介護1および2の者も「日常生活支援総合事業」へ移行したい考えだ。
財源構成は予防給付や介護給付と変わりはないのに、なぜ国は「日常生活支援総合事業」へ移行したいのか考えてみた。
国はなぜ「日常生活支援総合事業」へと移行したい?
まず介護保険制度のサービスは、住宅改修をのぞいて分けると以下のようになる。
- 都道府県等が指定監督を行うサービス(介護予防サービス・居宅サービス・施設サービス)
- 市町村が指定監督を行うサービス(介護予防支援・地域密着型介護予防支援・地域密着型サービス)
- 市町村が実施する事業(地域支援事業)
このうち市町村が実施する事業は、予防給付と介護給付に当てはまらず、財源構成の同じ「介護予防・日常生活支援総合事業」と、2号保険料のない「包括的支援事業」に分けられる。(改正前と変化なし)(*2)
(*2)地域支援事業の概要
www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/seisaku_package/pdf/1-2.pdf
国が要介護1および2の者を移行させようとしているのは、この「介護予防・日常生活支援総合事業」に当てはまる部分だ。
財務省はこう言っている。
【論点】
○介護保険制度の創設以来、在宅サービスについては⺠間企業の⾃由な参⼊が可能とされる⼀⽅で、在宅・施設サービスのいずれについても、事業者は介護報酬を下回る価格を設定することが可能とされている(=サービス⾯のみならず、価格競争も可能)。
○しかしながら現実には、営利法⼈の参⼊が進んできた⼀⽅で、介護報酬を下回る価格を設定している事業者は確認できず(注)、サービス価格が報酬の上限に張り付いている実態にある。
(注)事業者が割引を⾏う場合には、その届出を受けた都道府県が、厚労省通達に基づき「WAM NETへの掲載等の⼿段により周知を図る必要」があるが、財務省調査によれば、2014年8⽉に全国で1事業所確認できたが、2019年4⽉時点では確認できない。
国は介護保険制度の創設当初、民間企業が参入し価格競争とともに社会保障費も抑えられると講じていたのだろう。
しかし実際には高齢者が増えていくなか、あえて安価にサービスを提供しなくても利用者の獲得に困ることはないため、わざわざ割引してサービスを提供する事業所はいなかった。
そこで状況を一新したく「介護予防・日常生活支援総合事業」を新設した。国が失敗した価格競争を、今度は市町村へ丸投げした形だ。
市町村では国が設定した上限額を超えない範囲で、サービス費を自由に設定できる。
もちろん民間企業の参入も可能だが、市町村が決めたサービス費や基準に準じるため、企業側もどの地域で事業を開始しようか品定めを行うのではないかと考える。
「軽度」の判断がどう転がるのか、不安が残る
また、現行の「介護予防・日常生活支援総合事業」にはいくつかのサービス種別が設定されている。
【訪問型サービス】
- 訪問介護(改正前と同等のサービス)
- 訪問型サービスA(緩和した基準によるサービス)
- 訪問型サービスB(住民主体によるサービス)
- 訪問型サービスC(短期集中予防サービス)
- 訪問型サービスD(移動支援)
【通所型サービス】
- 通所介護(改正前と同等のサービス)
- 通所型サービスA(緩和した基準によるサービス)
- 通所型サービスB(住民主体によるサービス)
- 通所型サービスC(短期集中予防サービス)
上記のうち、1.以外は、「多様な担い手による多様なサービス」=「多様な単価・住民やボランティア主体などが想定されており、安価なサービス提供費で安価な利用料になるような仕組み」である。
要は住民とボランティアに活躍してもらい、膨らむ社会保障費を抑えたいという考えだ。
要支援者より介護度が重い要介護1および2の者が、1以外の住民やボランティア主体のサービスを利用するにあたり問題はないのだろうか。もし移行したとしても、1の改正前と同等のサービスを利用する者が圧倒的に多いと考えるが、社会保障費の抑制になるのか。
国は市町村のサービス費の設定と民間企業の価格競争に期待を寄せているのだろうが、そう上手くいくとは思えない。
いずれにしても、財務省が「軽度」と呼称した要介護1および2の者の、本当に必要なサービスがきちんと受けられるのか心配である。
また、地域包括支援センターが行うケアプラン作りも、相当大変になるであろう。