高年齢労働者の拡大に向け、労災防止の指針策定へ〜介護施設勤務者に腰痛リスクの高い理由とは?

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高年齢労働者の拡大に向け、労災防止の指針策定へ〜介護施設勤務者に腰痛リスクの高い理由とは?

働く高齢者の労災防止、指針を策定へ 厚労省 介護・福祉現場も想定

リタイアせずに仕事を長く続けていく人がさらに増える「人生100年時代」に向けた動きだ。

厚生労働省は5日、働く高齢者の安全・健康の確保をテーマとする有識者会議を立ち上げた。職場として配慮すべきポイントや労働災害を防ぐ有効な方策などを検討し、事業者向けのガイドラインの策定につなげる計画。年内にも内容の骨格を固める予定だ。

厚労省は介護・福祉も高齢の労働者が増加していく主な分野として想定している。今後の議論の行方はサービスの現場にも影響を与えそうだ。

政府は希望する人が70歳まで働けるように「高年齢者雇用安定法」を改正する方針。労災を未然に防止し、高齢者がその能力を存分に発揮できる環境の整備は急務だ。

厚労省によると高齢者の労災の発生率は高い。70歳前後と30歳前後を比べると、男性で2倍、女性で5倍もの格差がある。この日の有識者会議では、介護施設なども含むサービス業で労災が増えていること、介護の現場では特に腰痛が目立つことなども報告された。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg716.html

高年齢労働者の労災防止のため、指針策定

国が、元気で働く意欲のある高年齢労働者の雇用機会の更なる拡大に向けて動き出した。高年齢労働者が腰痛などのリスクの高い社会福祉施設などで働くにあたり、労働災害を防止する取組みを推進し環境整備を行うため、8月5日に厚労省は第1回「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」を開催した。(*1)

(*1)第1回「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06087.html

厚労省の都道府県労働局の安全衛生対策パンフレットによると、社会福祉施設での業務上疾病の発生総数のうち腰痛が6割以上を占めている。(*2・P2/60)

(*2)社会福祉施設における安全衛生対策 腰痛対策・KY活動
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/shakai_a.pdf

社会福祉施設では腰部に負担の掛かる作業が多いのが原因であり、予防対策が不可欠だとし、施設の運営者・管理者・職員全員で職場環境の安全衛生対策に取り組むことが効果的だとしている。

腰痛リスクの高い主な作業は?

社会福祉施設のなかで、保育施設は子供が相手のため、かがむ動作や抱っこをしてあやすなどの作業が多く腰痛になるリスクが高いのは分かるが、高齢者が相手の介護施設ではなぜ腰痛が多いのか、リスクの高い主な作業を紹介したい。

自分で身体を動かすことができない重度療養者の場合

【移乗動作】
ベッドから車イスや車イスから機械浴のストレッチャーなどへの移乗の場合、バスタオルやシーツなどを身体の下に敷き介助者は2人以上の体制で行うが、利用者の身体を浮かせた状態で移動するため力が必要である。施設によってはリスク回避のため介護ロボットを導入しているところもある。

【排泄介助・シーツ交換など】
オムツ交換やシーツ交換では、利用者の身体をベッド上で移動させながら行うため持ち上げるという動作はないが、かがんだ姿勢で作業を行うため腰部に負担がかかる。ベッドの高さを介助者の身長に合わせて高くして行うが、立った姿勢の高さにはならないためかがむ必要がある。

車イス移動だが立位保持のできる中度療養者の場合

【移乗動作】
ベッドから車イスなどへの移乗の場合、利用者が立ち上がる際に介助と支えが必要である。利用者が立ち上がりやすいように、介助者は自分の身体を引きながら利用者を立たせる。

その際バランスを崩さないように膝を曲げ、半中腰で支えながら利用者の身体の向きを移動先の方向へ変えるなどの介助を行うときに負担がかかる。手すりに掴まれる利用者であれば手すりを利用するため腰部への負担は比較的少ない。

【排泄介助】
トイレの便座への移乗は上記と同様であるが、利用者が立っている間に下衣の脱ぎ履きの動作を支えながら行うため、半中腰の動作に中腰の動作が加わる。

自立歩行のできる軽度療養者の場合

【更衣動作】
利用者全員が当てはまる訳ではないが、椅子に座っていてもズボンを足に通すことや、靴下や靴の脱ぎ履きなどに介助が必要な利用者が多い。主に入浴時に介助を行うが、しゃがみ込んだ姿勢で介助を行うため腰部に負担が掛かる。

そして介助の度合いに拘らず、全利用者に共通するのが入浴介助である。洗身・洗髪・浴槽に入る・出るなどの動作や身体を拭く動作では、半中腰から中腰の動作が多い。

介護技術への学びを深めることは職員の身を守ることにもつながる

以上のように、介護施設の業務は何かと腰部に負担のかかる作業がメインである。実は介護職員たちが介護技術の学びを深めているのは、利用者を安全に介助するという理由以外に自分たちの身を守るためでもあるのだ。

高年齢労働者が介護の仕事へ興味を持って働いてもらえることは大変ありがたいことであるが、腰痛発生のリスクを少しでも回避させるために、まずは腰部に負担のかからない介護技術の習得が必要である。また事業所側には、腰痛になるリスクの少ない業務を担当してもらうなどの配慮をする必要があると考える。

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