社会福祉施設の腰痛者増、過去最悪を更新|現場介護士の身体的負担と介護機器

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社会福祉施設の腰痛者増、過去最悪を更新|現場介護士の身体的負担と介護機器

今回は介護職員の身体的負担と介護機器について考察してみたい。

社会福祉施設の労災死傷者、過去最悪を更新 50歳以上が6割弱 厚労省

高齢者や障害者らを受け入れる社会福祉施設で仕事中にケガなどをする労働災害に見舞われた職員が、昨年の1年間で8738人にのぼったことが厚生労働省のまとめでわかった。前年から457人(5.5%)増え、過去最悪を更新している。

運送や建設、小売などを含む全業種の労災による死傷者は12万460人。2年連続の増加となったが、長期的にみると減少傾向が続いている。ピークだった1978年は約35万人。現在の3倍弱と非常に多かった。

一方、社会福祉施設での労災の死傷者は年々増加している。2007年は4338人。この10年で2倍以上に膨らんだ形で、厳しい実態が改めて浮き彫りになっている。

厚労省も手を打ってはいる。例えば腰痛。2013年に「予防対策指針」を改定し、負担が重い移乗介助ではリフトなどを積極的に使うよう指導している。このほか、専用の講習会を各地で開催するなど周知・啓発活動を展開中だ。ただ結果は十分に出ていない。

社会福祉施設の労災の原因をみると、利用者の移乗介助などに伴う「動作の反動・無理な動作(腰痛など)」が34.1%で最多。次いで33.1%の「転倒」が多く、この2つで全体の7割弱となっている。職員の年齢では50歳以上が57.5%。国がサービスの担い手として期待する中高年が6割弱を占めていた。

実際の労災案件では、

○ ベッドから車いすへの移乗を介助していたところ、入所者がバランスを崩して転倒しそうになったため、これを支えようとしたら体を痛めた
○ 入浴介助の後、浴室から出たところで足を滑らせて転倒した
○ 施設内で洗濯物を干していたところ、バランスを崩して脚立から転落した

といったケースが報告されていた。

https://articles.joint-kaigo.com/article-9/pg47.html

社会福祉施設での労働災害が増加

厚生労働省のまとめで、社会福祉施設の労働災害に見舞われた職員が前年から457人増加し、昨年度は8,738人と過去最悪の人数になったことがわかった。
平成24年から比べると34.8%の増加となっている。中でも「転倒」と、「動作の反動・無理な動作」による腰痛が増加傾向にあるとのこと。(*1)

(*1)平成29年の労働災害発生状況を公表
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000209118.html

平成26年3月28日に策定された「労働安全衛生法施行令第2条第3号の業種における安全推進者の配置等に係るガイドライン」(*2)により、常時10人以上の労働者を使用する事業所では、安全推進者を1名以上配置して安全管理体制の整備に取り組むことになった。

(*2)労働安全衛生法施行令第2条第3号に掲げる業種における安全推進者の配置等に係るガイドラインの策定について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0312&dataType=1&pageNo=1

腰痛でも現場を離れるわけにはいかない?

このため介護施設などでも、定期的に腰痛予防対策などの安全衛生活動が行われている。
「腰痛チェック」の結果に基づいた潜在的腰痛者への予防運動や生活指導、業務改善の提案、腰痛が出現している者への腰痛診断、受診促進などであるが、あまり効果は得られていない。

これは、「腰痛チェック」の段階で腰痛があるにも関わらず、チェックに引っかからない回答をしているためだと思われる。
理由はその後の腰痛診断や、受診する際の時間の捻出などを負担と考えている者が多いからだ。
勤務時間帯には現場を離れることができず、休日や勤務前後の時間を割いて時間を捻出しなければならない現状がある。そこまで介護現場の人材不足は逼迫している。

また、国は「介護の現場における腰痛予防対策の基本的な考え方」の中で、

  • 作業姿勢と動作
  • 作業標準
  • 介護者の適正配置
  • 施設および設備の構造の改善

を腰痛予防のポイントとして述べているが、作業姿勢や動作については有資格者にとっては当たり前の知識である。
その他の項目については、一人の介護職員で取り組めるできることではない。

特に、施設および設備の構造の改善に関しては、「適切な介護設備、機器などの導入を図ることと介護に関連した業務を行うための設備を整える」としているが、これは事業所の運営状況も関わってくるため、事業主の考えに委ねることになる。

利用者の個別ケアが介護機器導入のネックに?

他には、利用者の個別ケアも介護機器の積極的な導入に歯止めをかけている。

例えば介護機器を導入したとする。
しかし自立支援に向けた個別ケアを行うことは、その介護機器を使用する対象の利用者が少ない場合がある。

そこでその介護機器を施設に1台購入したとしよう。
保管場所を決め、皆で必要な時に使用すると決めたとしても、すぐ手に届く場所になければ間に合わない場合もある。結局使用頻度が減り宝の持ち腐れになる。

また、個別ケアは利用者ができることは自身で行ってもらうという考え方だ。
介護機器が優れていても、個別ケアを妨害するような物では意味がない。
介護機器の導入に関しては、使い勝手は勿論だが、どこまで臨機応変に個別ケアに対応できるのかも重視しなくてはならない。

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