「家族の勤務実態も踏まえたケアプラン」とは?産業ケアマネの育成が急務?

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「家族の勤務実態も踏まえたケアプラン」とは?産業ケアマネの育成が急務?

「産業医」ならぬ「産業ケアマネ」の育成を 規制改革会議、介護離職ゼロへ提言

政府の規制改革推進会議は10日、「介護離職ゼロ」の実現に向けた意見書をまとめた。

利用者の家族が今の仕事を無理なく続けていけるようにする − 。そうした視点も重視したケアプランを作れるケアマネジャーを育成すべきと提言。必要な知識を身に付けてもらうセミナーを開催するとともに、それを受講したケアマネを評価する仕組みを設けて推進すべきと求めた。今後、厚生労働省に具現化を働きかけていく方針だ。

取りまとめにあたった中央大学法科大学院の安念潤司教授は会合後の会見で、「医師には産業医がいる。これはその介護版。言わば『産業ケアマネ』とでも呼ぶべき人材を育成してはどうか」と述べた。加えて、「親などの介護をしながら働くというのはどういうことか。どんな働き方をすればうまくいくのか。そうしたことも十分に考慮して支援にあたれる人材がもっと増えればいいなと考えた」と語った。

「産業ケアマネ」はここ数年で関心が高まってきた概念。介護離職を減らす効果が見込めるとして、既に一部の企業などが実際に育成を始めている。多くの場合、仕事と介護を両立していくうえで役に立つ知見を研修などで深めたケアマネを指す。これから登場する機会が増える言葉になるかもしれない。

規制改革推進会議は今回の意見書に、介護休暇を時間単位で小刻みに取得できるようにすることも盛り込んだ。現行の制度では半日単位でしか取れない。ケアマネのモニタリングに同席して相談の機会を得られるなど、働きながら家族を介護する人にとってメリットが大きいとしている。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg584.html

家族の勤務実態も踏まえたケアプラン作成に向けて

2019年5月10日に内閣府の諮問会議である第44回規制改革推進会議が開催され、「介護離職ゼロに向けた一段の両立支援策に関する意見について」話し合いが行われた。(*1)

(*1)規制改革推進会議「介護離職ゼロに向けた一段の両立支援策を」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20190510/190510honkaigi01.pdf

そのなかで、ケアマネによる就労している家族の勤務実態も踏まえたケアプラン作成の実現化(セミナーなどの開催)が早急にとるべき対応策としてあげられた。

ケアマネは既に、本人と家族の希望を勘案したケアプランを作成している。介護支援専門員の定義としては、要介護者本人の心身の状況等に応じた適切なサービスが利用できるように連絡調整などを行うとし、義務については、常に本人の立場に立って業を成すとされている。

これは介護保険制度の基本理念「利用者本位・利用者の選択の尊重・自立支援」の考えからくるものである。もちろん本人の我儘を全て受け入れるという類ではなく、生活の質の向上のために必要な支援を行うことが目的だ。

「利用者本人の代弁者」ケアマネの本分からずれないか懸念も

果たして規制改革推進会議の言う「家族の勤務実態も踏まえたケアプラン」とはどういったものになるのか考えてみた。規制改革推進会議の目的は、介護離職ゼロである。

居宅ケアプランのなかに、就業している家族が離職しないようなプランを盛り込むとすれば、朝早いヘルパーの利用や通院介助、勤務日の通所サービスの利用、役所手続きの代行、夜間帯のヘルパーによる身体介護などが挙げられる。

しかしこれらを全て可能にするのは、支給限度額・サービス事業所の受け入れ体制などの問題も絡んでくるであろう。何よりケアマネは本人の代弁者であり、本人の潜在能力や強みを最大限に発揮できる支援を行うことが目的であり、そのなかに家族との関わりをインフォーマルな支援の担い手、必要不可欠な存在として捉えている部分がある。家族の希望は勘案するが、あくまでも本人の支援が最優先だ。

現時点で「家族の勤務実態も踏まえたケアプラン」の全貌が見えないため分かりかねるが、ケアマネの業務とは少し視点がずれている。「家族の勤務状態を踏まえたケアプラン」を作ることにより、本人の要介護状態の軽減に結びつくのであれば視点がずれているとは言い切れないが、セミナーなどの内容が非常に気になるところだ。

家族の負担を軽減するような取り組みが導入しやすいか

では次に、規制改革推進会議の問題提起として約10万人が介護を理由として離職・転職に至っているとのことだが、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査結果を見てみたい。

年間に介護を理由に10万人が離職しているといわれるが、約8割が介護終了まで同じ勤務先で仕事を続けられているのである。特に介護期間が「1年以内」と短い場合は90%が同一就業継続している。その割合は2年、3年と経つと低下する傾向を示しているが、3年を超えると再び同一就業継続割合が上昇する。
(P10より抜粋)

全体の回答比率をはじめにみると、「介護とは関係ない仕事上の理由」が24.3%、「介護とは関係ない私生活上の理由」が17.3%を占めており、必ずしもここで示している離転職は介 護によるものに限定されない。しかし、最も高い割合を示しているのは「介護による心身の負担が大きかった」であり、「介護にもっと時間を割きたかった」も19.6%ある。「介護による心身の負担が大きかった」から「介護のために昇進の見込みがなくなった」のいずれかに該当するケースを「何らかの介護関係の理由」として括ると61.2%が該当する。大まかに20%の離転職者の60%が何らかの介護関係の理由で退職している。
(P12より抜粋)

※引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構「介護者の就業と離職に関する調査」

離職者の内、約8割は介護開始前の職場へ復帰しているとある。また離職した約2割の者の離職理由が、介護に関係する理由だった割合は約60%で「介護による心身の負担」が一番多かったという結果だ。

上記のことから、ケアマネが「家族の勤務状態を踏まえたケアプラン」を作る上で必要なセミナーの内容は、家族の心身の負担を取り除けるような研修などになると考える。併せて業務過多になりそうな、ケアマネの心身の負担を取り除く策も必要になりそうだ。

最後に一つ、気になった点を申し上げたい。規制改革推進会議の現状の課題で取り上げられた「家族のモニタリングへの同席」であるが、同席できない場合、ケアマネはいつでも電話で話しをする体制ができている。また本人の前では言いづらいことなどは、電話で話しをした方が良い場合もあることを知っておいていただきたい。

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