「介護現場革新会議」7自治体でパイロット事業開始へ〜国のフォローアップに期待

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「介護現場革新会議」7自治体でパイロット事業開始へ〜国のフォローアップに期待

厚労省、介護現場革新へ全国7ヵ所でパイロット事業開始 ノウハウを横展開へ

厚生労働省は今年度、介護現場の生産性の向上に向けたパイロット事業を全国7ヵ所で実施する。

6日、特養や老健、グループホームなどの事業者団体が参画する「介護現場革新会議」を開催。選定した7自治体から事業内容の報告を受け、相互に連携して取り組みを展開していく方針を確認した。「今日がキックオフ。年度末までに一定の取りまとめをしたい」。老健局の担当者は記者団にそう説明した。

パイロット事業の成果を全国に横展開していく考え。今年3月に初めて策定・公表した「生産性向上ガイドライン」をアップデートすることなどにより、得られたノウハウを広く普及していく計画だ。

この日の会合に出席した根本匠厚労相は、「介護現場の革新は中核の施策の1つ」と挨拶。「新たな時代にふさわしい工夫にあふれた事業となることを期待している」と呼びかけた。

□イメージ改善にも挑戦

介護現場革新会議は今年3月、高齢者の急増と現役世代の急減が同時に進む今後を見据えた「介護現場革新プラン」をまとめている。

人手不足に対応した新たなマネジメントモデルの構築が柱の1つ。施設などの業務を細かく切り分けたうえで、必ずしも高い専門性を要しないものを“元気高齢者”などに任せていく形を広げる計画を掲げた。こうした役割分担とロボットやセンサー、ICTなどの活用をセットで進めていくことで、サービスの質の維持や職員の負担軽減を図る構想を描いている。加えて、人材の確保・定着に向けて業界のイメージを改善する施策を強化することも盛り込んだ。

今年度のパイロット事業では、7つの自治体が実際にこれらを行う。事業者団体などからの後押しも受けて、現場でうまくワークする手法や成果の出るメソッドをそれぞれ探っていく。

例えば三重県では、介護助手をどう配置すればより効果的に活躍してもらえるかを検証する。また熊本県では、地元の福祉系高校と協力して中学生に介護の魅力を伝える試みをするという。

老健局の大島一博局長は7日に都内で行った講演で、「全体として人手が足りないなかで、サービスの質を低下させないために何ができるのか。全国の事業所で取り組める形を皆で考えていきたい」と述べた。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg620.html

生産性向上に資するガイドラインを参考に7つの自治体がパイロット事業をスタートへ

2019年6月6日に第4回介護現場革新会議が開催された。(*1)

(*1)第4回介護現場革新会議
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000516197.pdf

厚労省老健局が公表した各サービス別の「生産性向上に資するガイドライン」(*2)を参考にし、選定された7自治体がパイロット事業を行う運びとなった。

(*2)厚生労働省「介護分野における生産性向上について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198094_00013.html

今後も介護現場が持続可能であり続けるために、介護人材と介護の質を確保する対策が必要であり、そのためには生産性の向上が必須である。これらの生産性向上への取組を7自治体が先行して行い、全国に横展開していくという。

ムリ・ムラ・ムダが生じる根本的な原因は?

「居宅サービス」の生産性向上ガイドラインを見ると、課題抽出における3M(ムリ・ムラ・ムダ)の視点の例を取り上げているが、どれも的確な事例だと感じる。

課題抽出における3Mの視点

ムリ:設備や人材の心身への過度の負担
キャリアの浅い職員がいきなり一人で夜勤になる
体重80㎏の男性利用者のポータブル移乗を女性の介護職員1人で対応する
バイタルなどの記録を何度も転記している

ムダ:省力化できる業務
バイタルなどの記録を何度も転記している
利用者を自宅に送った後、忘れ物に気づき、もう一度自宅に届ける

ムラ:人・仕事量の負荷のばらつき
手順通りに作業する職員と、自己流で作業する職員、状態に応じて介助する職員がいる
曜日によって、夕食の食事介助の介護スタッフ数がばらつき、食事対応に差が生じる
介護記録の研修もなく、記載の仕方が職員によってマチマチで正確に情報共有がなされない

※引用:居宅サービス分 介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン

それぞれの主な要因を考えてみると、「キャリアの浅い職員がいきなり一人で夜勤になる」「体重80㎏の男性利用者のポータブル移乗を女性の介護職員1人で対応する」「曜日によって、夕食の食事介助の介護スタッフ数がばらつき、食事対応に差が生じる」は、人員不足である。そのため人員を確保すれば解決する問題だ。

しかしそれ以外は、まさにムリ・ムダ・ムラである。バイタルなどの記録の転記の重複と、記録の仕方の統一はIoT化が進めば軽減できるだろう。しかし、「利用者を自宅に送った後、忘れ物に気づき、もう一度自宅に届ける」と、「手順通りに作業する職員と、自己流で作業する職員、状態に応じて介助する職員がいる」に関しては、ゼロにするのは難しいところもある。

国のフォローアップありきの施策では

さらに他のムリ・ムダ・ムラを考えてみたい。

  • 病院の付き添いに行ったが家族に引き渡せず職員が戻ってこられない(ムリ)
  • 送迎範囲以外の遠方の送迎(ムリ)
  • 毎日のレクリエーションの企画・準備・買い出し(ムリ)
  • 委員会活動・研修・マニュアル作成(ムリ)
  • 利用者の持ち物の洗濯(ムダ)
  • 利用者の家へ送迎に行ったが不在であった(ムダ)
  • 職員が急に休み人員が不足し業務が回らない(ムラ)
  • 情報伝達方法(ムダ・ムラ)

サービス事業所により異なるが、小さなことまで取り上げてみると多数ある。少し改善すれば防げそうなこともあるが、毎日の忙しい業務の中で、改善計画にあてる時間を作る余裕もないのが現状だと思われる。また、改善活動が活発な事業所であっても、改善案を提出して実行はするが、継続して行われることが少ないと感じる。

ムリ・ムダ・ムラが解消するよう職場環境の整備を行い、生産性の向上に繋げていくことで介護の価値が高まるという結果になるのだが、「生産性ガイドライン」には落とし穴としてこう書かれている。

よくある落とし穴

キックオフ宣言後のフォローアップをしない  

キックオフ直後から、全ての職員がプロジェクトチームに賛同し、積極的に取り組むことは非常に稀です。むしろ、変化に対する抵抗や不安の声が聞こえてくることが殆どです。そうした現場の意見に丁寧に耳を傾け、今一度、実行計画を吟味し、修正すべきところは速やかに修正しましょう。利用者と接点がある現場の職員が納得し、自らの意識を変えなければ、どんなに優れた計画であっても成果は期待できません。計画を実行に移す前には必ず、キックオフの機会を設けた後、必ずフォローアップしましょう。

※引用:居宅サービス分 介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン

フォローアップがなく、「改善計画を立てても実行しているのは一部の職員だけ」ということを経験したことがあるだろうか。改善内容が浸透されない、もしくは返って不効率になってしまった、などということが原因だが、こうした「一部の職員だけ」の差が作業手順などのムダやムラをさらに広げていく。

今回7つの自治体がパイロット事業を始めるが、国がフォローアップを怠ると横展開をしていくことが難しくなり、統一しはじめた自治体ごとの業務にまた差が出ると考える。フォローアップがされ、他の自治体やサービス事業所の意見を聴きながら修正を重ね、全国で取り組める内容になることを期待したい。

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