介護施設の事故報告をフィードバック、再発防止へ|報告範囲についても明確にすべき

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介護施設の事故報告をフィードバック、再発防止へ|報告範囲についても明確にすべき

「フィードバックの仕組みを」 看護協会、介護施設の事故対策の改善を要求

介護施設などから報告された利用者の事故についての情報を、その後の再発防止につなげていく仕組みに不備があるのではないか − 。日本看護協会がそう問題を提起している。

28日、制度を所管する厚生労働省の老健局へ要望書を提出したと公式サイトで報告。「医療依存度の高い利用者はさらに増加する。その安全を確保することは喫緊の課題」と速やかな対応を促している。

特養や老健などの介護施設には、利用者の転倒や転落など事故が発生した際に自治体へ報告する義務がある。

ただし、厚労省が昨年10月に実施した調査の結果によると、およそ半数の市町村が報告された事故情報の集計・分析を「行なっていない」と回答。介護施設への指導や支援に活かしているところは約4割にとどまり、約3割は事故情報を「活用していない」と答えていた。このほか、「どこまでを事故として扱って報告の対象にするか?」という判断基準が、介護施設によってそれぞれ異なることも明らかにされている。

看護協会はこうした状況を踏まえ、介護施設から寄せられる事故情報を一元的に把握・分析していくべきだと主張。そこから学び、再発防止策を現場に広くフィードバックする仕組みを構築すべきと求めた。現場の実情を踏まえた詳細な議論を行う検討会を設け、施設側の体制整備なども俎上に載せるよう要請している。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg606.html

介護施設利用者の安全管理、現状は?

日本看護協会が、2019年5月27日に厚労省へ要望書を提出した。要望事項のひとつに「介護施設等における利用者の安全を守るための体制整備」がある。(*1)

(*1)公益社団法人日本看護協会 広報部 厚労省老健局に要望書を提出
https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20190528153002_f.pdf

介護保険事業所で事故が起きた場合は、県の福祉事務所と市町村へ報告する決まりだが(自治体により報告の義務や内容は異なる)、報告された市町村は集計や分析などを行う程度で終わっている。(*2・P13/15)また、報告を受けて終わりという自治体もあるとのことだ。(*2・P12/15)

(*2)介護老人福祉施設における安全・衛生 管理体制等の在り方についての調査研究事業 (結果概要)(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000500266.pdf

今回、日本看護協会は厚労省で検討会を設置し、事故報告された情報の集計や分析を行い、事故の未然防止・再発防止につながる仕組みの構築と体制整備などをするよう求めた。

現場単位では詳細な事故報告をしている?

あくまで自身が所属していた施設所在地での経験だが、そこでは事業所が県の福祉事務所と市町村へ報告する決まりであった。そのため、県と市へ速報・事故報告書の提出・再発防止報告書の提出をそれぞれ行っていた。事故が起きた時の手順の詳細は以下のようになる。

  1. 利用者対応、状況確認、医療機関受診、家族対応、事故報告書(速報)
  2. 事故カンファレンス、事故報告書
  3. 再発防止報告書

原則、1と2は、事故が発生した日に行っていた。3に関しては、家族との状況や環境整備、人員体制の改善などを伴う場合もあるため、施設で防止策がまとまり、状況が整ってから報告することになる。いずれも県と市町村へは先に電話で一報を入れ、その後書類を提出していた。

速報には、事故の発生日時・発生場所・事故の種別(骨折や誤嚥など)・利用者の状況と変化・医療機関への受診・家族とのトラブルの状況を記入する。事故報告書は事故の原因と施設の対応、再発防止策報告書はそこに再発防止策を加えて記入する。

他にも発生場所の図面や出勤していた職員体制、利用者の病歴、事故カンファ記録などを添付していたのだが、県や市町村でこれらの書類や資料が何にも活かされていないのは残念だ。

事故報告すべき度合いについても頭を悩ませることに…

また、事故報告のときに頭を悩ませるのが、どの程度の事故を報告すれば良いのかということだ。県のマニュアルには、「死亡事故の他・骨折・裂傷・火傷・誤嚥・異食・誤薬等で医療機関を受診又は入院したものをいう」とあるのだが、軽度な擦過傷や打撲など日常生活に大きな支障がないものは除くとしている。

食事中に誤嚥をし、その場でタッピングを行い大事に至らなかったケースのときに、その後微熱があり念のため受診をしたところ、誤嚥性肺炎の診断を受けたことがある。また、勢いよくイスに腰掛けた利用者が腰痛を訴え受診したが何もなく、痛みが続いたため1週間後に再受診したところ圧迫骨折の診断を受けたというケースもあった。

どちらも入院はせずに施設へ戻ってこられたのだが、事故報告をするかどうか職員間で意見が割れた。誤嚥の場合は、誤嚥性肺炎は急になるものではないという専門職の見解があり、圧迫骨折の場合は、その日の受診では圧迫骨折の診断が下りなかったからだ。

結局どちらも事故報告は行わなかったのだが、今後自治体で事故報告された情報の集計や分析をし、事故の未然防止・再発防止に役立てていくのであれば、報告範囲をもう少し具体的に示してもらいたい。

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