PHRの推進による健康情報の整備に期待〜厚労省「医療・福祉サービス改革プラン」の打ち出しへ

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PHRの推進による健康情報の整備に期待〜厚労省「医療・福祉サービス改革プラン」の打ち出しへ

厚労省、現場の効率化を促す介護報酬へ見直し 「医療・福祉改革プラン」

厚生労働省は29日、2040年を見据えてまとめた今後の社会保障改革のグランドデザインを発表した。

その大きな柱の1つとして、新たに「医療・福祉サービス改革プラン」を打ち出している。

改革プランのメニューの中に、「現場の効率化に向けた工夫を促す報酬制度への見直し」を掲げた。2021年度に控える次の改定で視点の1つとする方針。通所介護の「ADL維持等加算(*)」など、アウトカム評価の拡充を図る姿勢も鮮明にした。具体策はこれから詰めていく。来年から審議会での検討を本格化させる。

* ADL維持等加算
2018年度の改定で創設された通所介護の新たなインセンティブ。評価期間の中で利用者のADLを維持・改善させた度合いが一定のレベルを超えている事業所が、次の年度に少し高い報酬を得られる仕組み。

厚労省は今回の改革プランで、AIやロボット、ICTの活用、組織マネジメントの強化、シニア人材の活躍、経営の大規模化などで生産性を高め、医療・介護ニーズの増大や深刻化する人手不足に対応していく構想を描いている。

介護のペーパーワークの半減も目玉の1つ。当面の具体策を年内にまとめる予定だ。現場の業務を細かく分類し、必ずしも高い専門性を要しないものを“元気高齢者”などの介護助手に任せる取り組みを、来年度から全国的に展開していく計画も盛り込んだ。

経営の大規模化については、まず社会福祉法人に運営の共同化や相互の連携などを促していく方針。実態・課題を把握する調査研究に乗り出すほか、うまくスケールメリットが生じるようガイドラインを策定するとした。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg604.html

「医療・福祉サービス改革プラン」の一つ、PHRの推進とは

2019年5月29日に「第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」がとりまとめた医療・福祉サービス改革プランのデータヘルス改革の中に、PHRの推進がある。

② PHRの推進
特定健診、薬剤、乳幼児健診等のデータについて、2020年度(薬剤は2021年度)からマイナポータルを活用して提供開始を目指す。さらに、PHR(※)の更なる推進に向け、検討会を設置し、本人に提供する情報の範囲や形式について2020年度早期に基本的な方向性を整理しつつ、必要な健康等情報を電子記録として本人に提供する仕組みの構築を進める。
※ PHR(パーソナル・ヘルス・レコード):個人の健康診断結果や服薬履歴等の健康等情報を、電子記録として、本人や家族が正確に把握するための仕組み

※引用:医療・福祉サービス改革プラン(P2)

個人の健康状態や服薬履歴が簡単に取得できるようになることは、介護サービス事業所にとっても、ありがたいことである。サービス提供を開始する前に本人の健康状態を把握するため、既往歴や服薬内容・現病歴などを確認するのだが、高齢者は既往歴について正確に覚えていないため、把握するのに時間を要する。様子がおかしいと思ってから本人や家族に聞いたところ、そういえば〇〇の病気をしていたということもよくある。

本人や家族が忘れているくらいだったら問題はないだろうと思うのだが、これが感染症などの場合はそういう訳にもいかないのだ。他の利用者に感染する病気では、それなりに対応が必要になる。

病歴・服薬内容への理解度向上が現場での適切な対応に繋がる

例えばC型肝炎の利用者であれば、お風呂はシャワー浴か湯船なら個別の浴槽、もしくは最後に大浴場に入ってもらうなどの対応が必要だ。緑膿菌などの保菌者であれば、さらに消毒を行う。保菌者が使用したタオル類は次亜塩素酸ナトリウムを希釈した熱湯に浸け、椅子やテーブルなども全て殺菌剤を塗布して施設内感染が起こらないようにするのだ。また、疥癬患者の場合は上記対応以外に、本人に接するにも手袋などを装着して介助する必要がある。

このように、既往歴や現病歴により利用者の対応が異なるため、正確に把握をすることが大切なのだが、いくつも病気をしてきた(している)利用者は、顕著な症状が無いと忘れてしまっている場合が多い。

服薬内容についても同様だ。何故その薬を飲んでいるのか分からないという利用者がいる。利用者や家族は「医者に処方されたから飲んでいる」と答えるのだが、次のようなケースもある。

以前、骨量を増やす薬を飲んでいた利用者に何故その薬が処方されたか聞くと、「歳だから医者に飲めと言われた」と話していた。家族に確認してもらったところ、実際は骨粗鬆症で骨がスカスカであり、転倒すればほぼ100%骨折する。また、勢いよくイスなどに座った場合でも、圧迫骨折などが起きる可能性があるほど骨の状態が悪いとのことだった。この日から施設ではリスク回避のため、見守りから付き添い歩行に変えた。

他にも薬により禁止食材がある。薬を把握していたとしても、服薬時の注意事項まで正確に覚えるのは大変だ。病歴や服薬の情報がPHRの推進により簡単に手に入れることができるようになれば、利用者の状態に合った適切な支援が可能になる。病歴は2020年、薬剤は2021年からの予定であるが、待ち遠しい限りである。

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