介護サービス事業所の価格競争を促すことがはたして正解なのか?価格と質の良さが比例しないと言える理由とは

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介護サービス事業所の価格競争を促すことがはたして正解なのか?価格と質の良さが比例しないと言える理由とは

財務省、介護サービス価格の透明性向上を要請 ケアマネへの説明義務化を主張

財政制度等審議会が財政の健全化に向けて19日にまとめた提言 − 。財務省は業界から強い反発の声が上がっている施策を盛り込み、早期に実現すべきと呼びかけている。

ケアプランを作成するプロセスで、複数の事業所のサービス内容や利用者負担について加減算の有無も含めて説明することを、居宅のケアマネジャーに義務付けるべきだという。

これらの透明性を高めれば給付費の抑制につながると見込む。利用者が比較・検討できる機会を確実に得られるようにし、サービスの質と価格の競争がより活発に行われる環境を生み出す狙いだ。「より良いサービスがより安価に提供される」などと勧め、違反した居宅の報酬を減算するよう注文している。

財務省は今年4月の財政審でもこの案を披露していた。その際、日本介護支援専門員協会は公式フェイスブックに意見書を投稿。以下のように反論していた。

「加算を算定していない事業所の方が安くて良い、という誤解を与え、正常な競争原理が働かない」「利用者による正当な事業所の評価を阻害する可能性が高い」

ただ財務省が持論を取り下げることはなかった。今回の提言では、「介護サービス事業者は介護報酬を下回る価格を設定でき、サービス面のみならず価格競争も可能。しかしながら現実には、サービス価格が介護報酬の上限に張り付いている」などと重ねて主張した。

2021年度に控える次の改定をめぐる論点の1つとなる見通し。厚生労働省の審議会には、財務省と同様の考え方を持つ委員も複数参画しており、ケアマネ協会などと対立しそうだ。

財務省はこのほか、居宅のケアプラン作成で新たに利用者負担を徴収し始めることを引き続き求めている。また、今回の提言では「ケアマネジメントの質を評価する手法の確立とその報酬への反映」も要請した。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg640.html

「民間企業の参入とサービス価格の透明性向上・競争推進」について

2019年6月19日に財務省が令和時代の財政の在り方に関する建議をとりまとめた。(*1)

(*1)「令和時代の財政の在り方に関する建議」財政制度等審議会(参考資料3)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20190619/05.pdf

このなかの社会保障分野において、社会保障制度の持続可能性の確保をするためには給付範囲・提供体制・公定価格の見直しが必要だとしている。介護保険では、軽度者へのサービスの地域支援事業への移行や民間企業の参入とサービス価格の透明性向上・競争推進、ケアマネジメントの質の向上と利用者負担、在宅と施設の公平性の確保などがあげられている。(*1・P68~81/P173)

この、民間企業の参入とサービス価格の透明性向上・競争推進に対し、日本介護支援専門員協会が4月26日に意見表明を行っている。(*2)

(*2)サービス価格の透明性向上・競争推進 (在宅サービスの在り方の見直し)についての意見表明
https://www.jcma.or.jp/wp-content/uploads/2019/04/190426ikenhyoumei.pdf

介護支援専門員の一人である自身も、次期制度改正・報酬改定でどのような運びになるのか、気がかりなところである。民間企業の参入とサービス価格の透明性向上・競争推進については、日本介護支援専門員協会と同様に反対である。

それは、利用者がサービス事業所を価格だけで選ぶようになってしまう危険性があると考えるからだ。介護のサービス事業所は安い=良いサービスでは決してない。

価格で事業所を選ぶことにおける弊害とは

加算を多く算定している事業所は、それだけ質の高いサービスを提供していることになっている。すなわち価格は高くなる。なかには加算を算定できる状態であっても、利用者の負担が嵩むことを懸念して、あえて算定をしないという事業所や、加算の算定要件は満たしているが、文書作成などに手間がかかりすぎるため算定しないという事業所もある。

さらに、人員体制の変動や事業所の方針が固まっていないため、加算を算定していないという事業所も存在する。

また、多くの加算を算定している事業所であっても、職員一人一人の質が良くない、加算対象者は事業所で選定するといった場合もあるため、ケアマネが利用者へ多くのサービス事業所の価格を提示したところで、利用者の思うようなサービスに繋がるとは限らない。

例えば財務省の言うように、ケアマネが利用者に複数の事業所のサービス内容と利⽤者負担を説明することが義務化されたとする。送迎・お風呂・レク・リハビリなどを提供している、似たようなサービス内容の事業所を10ヵ所紹介された利用者が、事業所を最終的に選ぶ決定打は、やはり価格になってしまうと考える。

はたして価格競争がサービスの質向上に繋がるのか?

財務省は、利用者が最終的に価格で選ぶことになることを予測しているのであろう。そうなればサービス事業所間では、利用者獲得のため嫌でも価格競争が起きる。しかし、これでは介護保険が目指している質の良いサービスから乖離してしまう。

これまでケアマネは、該当の利用者をアセスメントした結果、利用者の希望と自立支援にぴったりのサービスをいくつか綿密に調べ、提案するという流れが多かったと思われる。これが複数の事業所のサービス内容と利⽤者負担を説明することが義務化された場合、複数のサービス事業所の詳細を調べ尽くすのは難しい。

そうなると、ケアマネはあくまでその事業所が算定している加算を基に情報提供を行うことになるが、先に述べたように加算の算定については事業所ごとに事情がある。価格だけでサービス事業所を選んではいけないと、全国の利用者たちに言いまわりたい気分だ。

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