ヘルパー不足で介護事業者の倒産「訪問介護」が急増〜ヘルパーの業務内容の縛りがジレンマを生んでいる?

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ヘルパー不足で介護事業者の倒産「訪問介護」が急増〜ヘルパーの業務内容の縛りがジレンマを生んでいる?

介護事業者の倒産、上半期で過去最多 ヘルパー不足で訪問介護が急増

東京商工リサーチは4日、介護サービス事業者の倒産の状況をまとめた最新のレポートを公表した。

今年の1月から6月までで55件。上半期としては過去最多を更新した。これまで最も多かった昨年(45件)より10件多い高水準。倒産はこの数年で大幅に増えたが、今年は更なるハイペースで推移している。

倒産した事業者をサービス別にみると、訪問介護が前年の18件から32件へ急激に増えていた。このほか、通所介護や有料老人ホームなどが目立つ。慢性的な人手不足、とりわけ深刻なヘルパー不足が最大の要因とみられる。

倒産したのは主として規模が小さいところだ。55事業者のうち、資本金1000万円未満が87.2%、負債1億円未満が80.0%、従業員10名未満が80.0%だった。全体の92.7%が消滅型の破産を申請している。

東京商工リサーチは、「経営環境は一層厳しくなっている。ヘルパーなどの人手不足や高齢化に加え、大手・中堅事業者との競合で資金力の乏しい小・零細事業者の脱落が増えている」と分析している。

淑徳大学・総合福祉学部の結城康博教授は、「倒産に至る前に廃業したり売却したりするところも少なくない。これは氷山の一角。経営を続けていけなくなった事業者はさらに多い」と指摘。訪問介護の倒産が特に増えたことについて、「在宅介護を支えているのはヘルパー。訪問介護が脆弱になれば、介護難民がさらに増加してしまう。国は人材の確保に向けて、スーパーや飲食店といった競合他産業でも賃金が上がっていることを踏まえつつ、更なる処遇改善を図るべきだ」としている。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg658.html

ヘルパー不足から、訪問介護事業所の倒産が増加

東京商工リサーチが公表した「2019年上半期老人福祉・介護事業の倒産状況」では、設立5年以内の小規模の事業所の倒産が目立ち、特に訪問介護が最多である。(*1)

(*1)2019年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産状況
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190704_03.html

在宅の要介護者を支えるヘルパーの数が減少することは、利用者にも不利益が生じると懸念される。訪問介護事業所の参入は容易であるが、人材確保が困難なことと資金やノウハウが乏しいことが倒産の数の増加した要因だとしている。

自宅へ訪問し、身体介護や生活援助を行ってくれるヘルパーは、利用者本人はもちろん在宅介護を行っている家族にもありがたい存在だ。また一人暮らしをしている利用者にとっては、なくてはならない存在である。このままヘルパーが減り続けては、在宅での生活が困難になるのは目に見えているのは確かである。

介護業界はどの分野も人手不足であるが、なかでも倒産件数の増加が止まない訪問介護事業所のヘルパー不足が何故おきるのか原因を考えてみた。

ヘルパーが感じているジレンマとは?

東京商工リサーチではヘルパーの高齢化がみられるとしているが、それだけではない。ヘルパーのできること、できないことの縛りが多すぎるからである。(*2)

(*2)介護事業所・生活関連情報検索「訪問介護(ホームヘルプ)」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group2.html

この縛りがヘルパーたちにジレンマをあたえ、「してあげたいのにしてあげられない」という法の規制と心の葛藤で離職に繋がることが考えられる。

例えば、一人暮らしの利用者宅で生活援助を行う場合を取りあげてみる。利用者はもともと綺麗好きで家の中に埃はひとつもなく、毎日掃除をするのが日課だったが、歩行が困難になり行えなくなったので、介護保険の認定を受けて訪問介護を利用するとしよう。ケアプランに計画されたのは掃除であるが、ヘルパーは利用者の日常生活に支障のない行為や、日常の生活範囲を超える行為は行えない。

そのため、利用者がいつも使用する部屋以外の掃除は大掃除の範囲となり行えず、窓や電気、換気扇や隣の普段は使用しない部屋などは汚れが溜まっていく。綺麗好きな利用者が「換気扇を掃除してほしい」と訴えても、ヘルパーは心を鬼にして断らなければならない。この大掃除の範囲などは個人の価値観にもよるため、利用者にとっては日常的な範囲であっても、ケアプランには位置づけることができないのである。

また、普段は一人で家にこもりがちであり、ヘルパーとゆっくり話をしたいと思っても、これもできない。作業をしながら話しを交わすことはもちろんできるが、腰を据えて傾聴することはサービスに位置づけされていないのだ。

ほかにも色々ある。草木が大好きで元気なころは庭に花をたくさん咲かせていた利用者で、花を見ていると心が癒されると言っている利用者が、花壇に水を撒いてほしいと頼んでも断らなければならない。次第に庭は雑草で埋め尽くされて花どころではなくなってしまう。

そんな利用者の残念そうにしている顔をみるのが、いたたまれないというヘルパーもいるのが現状だ。

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