特養の人員配置基準、3:1以上はぎりぎりの人数〜特養で特に人手不足を感じた業務について解説

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特養の人員配置基準、3:1以上はぎりぎりの人数〜特養で特に人手不足を感じた業務について解説

特養、人手不足が加速 72.9%が「足りない」と回答 3年で1.5倍に増

福祉医療機構(WAM)が21日に公表したアンケート調査の結果では、特別養護老人ホームの72.9%が「人手が足りない」と答えたと報告されている。

利用者の受け入れを制限しているのは12.9%。本体施設で制限しているところでは、ベッドの利用率が平均82.2%、空床が平均13.9床だった。

WAMは「介護人材が確保できないことで、特養という社会資源が十全に活用されていない」と指摘している。

この調査は今年の3月から5月にかけてネットで行われたもの。WAMの貸付先の特養3561施設が対象で、853施設から有効な回答を得たという。

それによると、人手不足だと答える特養は右肩上がりに増えている。前々回の16年度調査が46.9%、前回の17年度調査が64.3%。この3年で1.5倍まで上昇しており、深刻な事態が加速している状況が伺える。

職員の不足感を感じる業務(複数回答)では、食事介助(74.4%)、入浴介助(74.0%)、夜勤(69.6%)、排せつ介助(55.3%)などが目立つ。人材の確保が困難な理由(複数回答)では、近隣施設との競合(61.4%)、賃金水準(57.7%)、地域の労働人口の減少(55.6%)、不規則勤務の敬遠(49.2%)が上位だった。

特養の人手不足をめぐっては、介護労働安定センターが今月公表した調査結果でも同様の傾向がみてとれる。

社会福祉法人の介護職員の不足感は実に79.8%(*)。その要因を聞くと、64.4%が「同業他社との人材獲得競争が激しい」、60.3%が「他産業と比べて労働条件が良くない」と答えていた。また、施設に運営上の課題を尋ねたところ、「良質な人材の確保が難しい(65.5%)」、「今の介護報酬では十分な賃金を払えない(47.1%)」などが多かった(ともに複数回答)。

* 不足感=大いに不足+不足+やや不足の合計

□外国人材、56%が「検討してない」

今回のWAMの調査結果では、外国人を雇用していない特養が79.6%にのぼることも分かった。今後の受け入れについては、44.0%が「検討している」。56.0%は「検討していない」と回答していた。

https://kaigo.joint-kaigo.com/article-12/pg907.html

特養で人員不足を感じる業務とは

福祉医療機構が8月21日に公表した特養の「平成30年度の介護人材に関するアンケート調査の結果」において、人手不足を感じている施設は72.9%であった。(*1・P5/13)そのなかで、人員の不足を感じる業務の上位は、食事介助・入浴介助・排泄介助である。(*1・P6/13)

(*1)平成30年度「介護人材」に関するアンケート調査の結果について
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/190821_No006.pdf

介護人材の人手不足の影響で、特養以外にも介護業界では日常的に起きていることだ。今回はそれぞれの業務内容について、自身が経験してきたケースになるが紹介したい。

日々の介助において、どのくらいの人員が割かれていた?

食事介助

食事介助については、自分で食べることができない利用者に対して行うのだが、嚥下機能が低下している利用者に対して行う場合、のどに詰まらせないように細心の注意を払う必要がある。簡単そうだが利用者ごとに一度に口に入れる量や飲み込むタイミング、姿勢の角度などが異なり、全量摂取してもらうのに30分以上かかることがほどんどである。

また、食べることに意識が向かない利用者では、口を開けてもらうことに工夫が必要で、やはり時間を要するのだ。食事介助が必要な利用者が2~3名いれば、約1時間程度は職員1名の手が埋まってしまう。

入浴介助

次に入浴についてだが、介護保険法では週に2回以上行うことと定められている。週に2回であれば、そんなに人員を逼迫しないだろうと思いそうだが、施設の規模によっては1日で全員の入浴は困難だ。そのため、利用者の状態などに合わせ曜日を分けて行う。100名の施設なら、月・木は30名、火・金は40名、水.土は30名などといった具合で、毎日入浴介助は行われる。

フロアの見守りをしながらお風呂場へ順次誘導し、上がってきた利用者の髪を乾かしたりお茶を出したりする者や、脱衣所で脱衣や着衣、塗り薬などを塗布する者。さらに風呂場で洗身や洗髪、湯船へ入る介助を行う者と、最低でも3名必要である。時間も半日は要するため、入浴のために人員を厚く配置したいところだが、ぎりぎりの人数ではそうもいかないのが現状だ。

排泄介助

排泄介助ではオムツ交換だけではなく、便座への移乗や下衣の上げ下げ、自立度の高い者でもトイレへの誘導やパットを当てる、必要に応じて下着の交換や尿量のチェックなどの介助がある。

24時間、いつでもスムーズな介助ができるように心掛けているが、ほかの業務やトイレ介助が重なったときなどは、猫の手も借りたいほど忙しい。またトイレ介助は個室にこもるため、ほかの利用者の様子が見えないのが難点である。

蔓延する人材不足を解消する手立てはあるのか

まとめると、特養の日中の人員配置基準である3:1以上という人数は、入浴の日に必要な最低限の人員であり、食事介助についても職員の休憩時間を考えると、ゆとりなど全くない人数なのだ。

今回の調査結果では、人員が不足しているため全体の4.1%が特養本体施設、8.8%では併設する施設での受入れを制限している。空いている部屋があっても受け入れができない。万が一人員配置の基準が緩和されたとしても、今後は業務が回らない。個別ケアができなくなり、事故が増える、そんな特養が次第に増えていくのではないかと考える。

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