神奈川県、ケアプラン点検にAIを活用するパイロット事業開始〜「ハイブリッドケアプラン」で重度化防止なるか

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神奈川県、ケアプラン点検にAIを活用するパイロット事業開始〜「ハイブリッドケアプラン」で重度化防止なるか

ケアプラン点検に人工知能を活用 ケアマネとAIのプランを比較 神奈川県

保険者によるケアプラン点検にAI(人工知能)を活用する試みを神奈川県が初めた。

専門的な知識が十分でない市町村の職員が少なくない − 。そうした状況をAIで補う。ケアマネジャーにも新たな“気付き”の機会としてもらい、更なるレベルアップ、資質の底上げにつなげていく狙いだ。有識者の参画も得て、ここからどんな知見を得られるか詳しく検証するという。

厚生労働省から交付金を受けて実施する。「介護現場の革新」に向けたパイロット事業の一環。厚労省は効果的な取り組みを全国に横展開する計画で、神奈川県の試みの行方も注視していく構えだ。自治体がこの分野でAIを用いる動きが広がる可能性もある。

既に参加するケアマネも決まった。神奈川県によると、秦野市の居宅介護支援事業所で働く約100人が協力する。

使うのは「CDI Platform MAIA」。セントケア・ホールディングやツクイなどが共同で出資する株式会社シーディーアイが開発したAIだ。自立支援・重度化防止の視点を特に重視して設計された点が最大の特徴といえる。

利用者の状態がブラウザで入力されると、「MAIA」は、類似する過去の利用者の状態が改善された際のデータなどに基づき、望ましいサービスの種類、頻度、組み合わせを3パターン示す。そのプランを採用すると約1年後に利用者のADL、IADLがどう変わっているか、といった将来予測もあわせて提示。ケアマネはこれらをベースに、利用者の希望や家族のニーズ、暮らす環境、経済状況といった様々な要素を総合的に勘案し、最適なプランを練り上げていく。

神奈川県はこうした機能をケアプラン点検で活かせないか試す。例えば、ケアマネがいちから作ったプランと「MAIA」のプランの将来予測を比較。その違いを見出したうえで、自立支援・重度化防止に資するケアプランのあり方を議論してもらう。市町村の担当者とケアマネの双方について、不足している視点の補完に結びつける構想だ。

この夏から実際にケース検討会を開始した。今後、ケアマネ1人あたり10件のプランを取り上げていく。神奈川県は年内にも有識者による検証、成果の抽出までこぎ着けたい考え。その後、他の市町村との情報共有や国への報告を行う予定だ。

https://kaigo.joint-kaigo.com/article-12/pg923.html

AIを活用したケアプラン点検、神奈川県でパイロット事業として開始

高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を継続するためには、自立支援に役立つケアマネジメントが必要であるとし、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」ではAIを活用したケアプランの実用化と普及を推進している。(*1・P7/14)

(*1)第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部 資料「医療・福祉サービス改革プラン」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000513536.pdf

AIが重度化防止のプラン案を提供することにより、利用者がより良い介護サービスを選択できるようになることに加え、ケアマネの負担軽減やケアマネのレベルが統一されるといった点にも期待が寄せられている。

今回神奈川県は、老健局が実施する検討会のひとつである「介護現場革新会議」のパイロット事業として、このAIケアプランを市町村支援に導入する。(*2・P21/24)

(*2)神奈川県パイロット事業 介護現場革新会議資料 令和元年6月6日
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000516201.pdf

重度化防止のケアプランであるかどうか、ケアマネが作成したケアプランを点検するにあたり、知識基盤の足りていない自治体職員をAIケアプランがサポートする。両者のケアプランを比較・検討することにより、ハイブリッド型ケアプランができあがるとのことだ。ハイブリッド型ケアプランは、AIが膨大なデータからケアマネの経験値を補い、ケアマネが利用者の個別性に応じた部分を調整していく。

AI導入でケアプランの質向上、サービス内容の見直しに繋がるか

三菱総合研究所の報告書によると、自治体のケアプラン点検方法はそれぞれ異なり、自治体職員と委託したケアマネやPT・OT薬剤師などの専門職で実施しているところや、ケアマネ自身が研修に参加しグループワークで点検しているところなど多種多様だ。(*3)

(*3)適切なケアマネジメントを推進するための保険者機能のあり方に関する調査研究事業 報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/15_mitsubishi.pdf

点検件数も幅があり、年に20件という自治体やケアマネの人数分という自治体などさまざまである。点検に関して問題点や今後の課題も自治体ごとに抱えているが、AIケアプランを活用することで自治体の職員だけで点検ができるようになり、さらに点検件数が増えればそれだけ質の良いケアプランが増える。

また、事業所規模や経営状況などでAIを導入できない事業所や、AIを導入していても上手く使えないというケアマネも存在すると思われるため、保険者である自治体がAIケアプランを提案することは有意義である。

これまで過剰サービス気味であった利用者やサービス事業所に対しても、1年後の予測まで提示されている保険者のAIケアプランは説得力があり、サービス内容の見直しに役立ちそうだ。

各自治体がAIを導入することによりケアプランがレベルアップし、質の良いハイブリッドケアプランで重度化防止や過剰サービスの抑制に繋がれば、介護保険制度の持続可能性の確保にも繋がると考える。

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