介護職員処遇改善の新加算提案!揺れる事業主

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介護職員処遇改善の新加算提案!揺れる事業主

今回は新たな処遇改善加算の周りで起こる、事業主への影響について考察してみた。

処遇改善の新加算、手厚い職員配置で増額 加算率2段階 体制強化加算が要件
厚生労働省は12日、ベテランを中心とした介護職員の処遇改善に向けて来年10月に創設する新たな加算について、同じサービスの中で2段階の加算率を設定する方針を固めた。

介護福祉士の配置が手厚い事業所に賃上げの原資が多くいくようにする。質の高い人材の確保・育成に力を入れているところを高く評価する考え。サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算のいずれかを算定していることを要件とする。

12日の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で提案し、委員から大筋で了承を得た。今月19日にもまとめる審議報告に盛り込む。

新加算は既存の「処遇改善加算」のように、サービスごとの加算率でリソースが分配される仕組みとなる。加算率の多寡を決める指標は、「勤続10年以上の介護福祉士がどれくらいいるか」に決められた。ただこの方法だと、人材の育成や職場環境の向上に注力している事業所とそうでない事業所が同じ扱いとなるため、なんらかの差をつけるよう求める声が出ていた。

サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算はいずれも、職員に占める介護福祉士の割合が一定数を超えていることを要件に含むもの。会合では委員から、今年度の改定で特定施設に新設された同様の「入居継続支援加算」についても、評価の対象に加えるよう求める声があがった。厚労省はこれも含め、事業所の取り組みを的確に把握・評価する手立てを継続的に検討していくとした。

新加算の算定要件は、既存の処遇改善加算の「加算I」から「加算III」のいずれかを取得していること。厚労省は現在、既存の「職場環境等要件」の取り組みを複数行うことも必須とする方向で調整を進めている。

https://articles.joint-kaigo.com/article-9/pg92.html

介護職員処遇改善加算とは

平成24年度に創設された介護職員処遇改善加算とは、介護職員の待遇を良くするために賃金の改善を行い、社会的・経済的な評価が高まっていく好循環を生み出していくことを目的とするものである。
現段階では5段階の処遇改善加算があるが、国は来年10月に向けて新たな加算を創設する方針を固めた。
これにより介護職員の賃金が向上し、介護職離れの減少と介護職を目指す者が増えることに繋がれば良いが、一概に喜んでばかりはいられない。

要件に満たない事業者には悩ましい改定

現行の介護職員処遇改善の加算を算定するためには、サービス事業所が様々な要件を満たしていなければならない。
特に処遇改善加算Ⅰについては、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲと職場環境等の要件全てを満たすことが求められる。

【キャリアパス要件】(*1)
Ⅰ 職位・職責・職務内容に応じた任用要件(昇格など)と賃金体系の整備
Ⅱ 資質向上のための計画策定と研修の実施、機会を設ける
Ⅲ 経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期的に昇給を判断する仕組みを設ける

【職場環境等要件】
・賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取組を実施すること

(*1)「介護職員処遇改善加算」のご案内
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000199136.pdf

現在この処遇改善加算Ⅰの事業所の、平成29年8月サービス提供分における取得率は、厚生労働省の調べによると全体の66.2%である。(*2)

(*2)障害福祉サービス等報酬改定検討チーム「その他検討事項について」 P10
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000187126.pdf

約半数以上の施設が1か月1人当たり37,000円相当の処遇改善加算Ⅰを取得しているのは喜ばしいことであるが、今回創設される新処遇改善加算について悩みを抱えている事業主もいる。
それは、算定要件にサービス提供体制が関わってくることだ。

直接サービスを提供する介護福祉士の割合や職員の勤続年数が算定要件になるサービス提供体制は、職員の出入りが多い事業所では困難を極めるであろう。
サービス提供体制は、退職者が出て該当する段階の算定要件に満たないと見込まれた時点で、すみやかに変更を届け出なければならない。

もちろん新たに段階が上の要件を満たせる目途が立てば算定は可能であるが、この時も変更の2か月前までに届け出をすることになっている。
そのため、届け出ている間に見込んでいた要件を満たす事ができなくなる場合もある。

このようなことから、サービス提供体制は安定した収益と考えることが難しい加算であり、職員の出入りの多い事業所では人員に余裕をもった段階を取得している。

恩恵を受ける事業者とそうでない事業者

今回の新処遇改善加算が現行の処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかと、サービス提供体制が算定要件になるとすれば、キャリアパスⅢが要件の処遇改善加算Ⅰを算定している事業所はコンスタントに給料ベースを引き上げながら職員を確保し、算定要件から外れないように相当努力をしなければならない。

それは退職者が出てサービス提供体制の段階が下がり、新処遇改善加算の算定要件からも外れた場合、現行の処遇改善加算Ⅰは残るが収益の減少は免れないからである。
昨年からできた処遇改善加算Ⅰであるが、来年度からの新処遇改善加算のために無理をせず、キャリアパスⅢが要件に含まれない現行の処遇改善加算Ⅱへ引き下げるところも出てきそうだ。

もう一つの懸念材料は、求職者が新処遇改善加算を取得してる事業所に集まるようになることである。もちろん理由は給料が良く、人員も整っているため働きやすい環境であり将来設計もしやすいためだ。

このため介護職不足の昨今、新処遇改善加算や現処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを算定していない事業所には人材が集まらないことになる。
そして悪循環が発生し、経営が危ぶまれる事業所が出てくるのは否めない。

来年度創設の新処遇改善加算の料率が果たして何%になるのか、サービス提供体制のどの段階や内容が要件になるのか気になるところである。
せっかくの新処遇改善加算、基本給に組み込んでいくことができる安定した加算になることを願いたい。

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