「特定処遇改善加算Ⅰ」を容易に算定でき、全職員が満足できる事業所の条件とは?

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「特定処遇改善加算Ⅰ」を容易に算定でき、全職員が満足できる事業所の条件とは?

【介護報酬改定2019】新たな「特定処遇改善加算」、要件・ルールまとめ改訂版!

介護職員の賃上げを柱とする来年度の介護報酬改定 − 。各サービスの基本報酬や加算の単位数、その算定要件などを規定している告示をどう見直すか、厚生労働省はその全文を13日の審議会で公表した。今年10月1日から適用する。

(中略)

□事業所内での配分方法(2)

“経験・技能のある介護職員”のうち、月8万円の賃上げとなる人、あるいは賃上げ後に年収が440万円を超える人を設定・確保しなければいけない、とのルールも設けられた。年収440万円は全産業の平均賃金(役職者を除く)。今の介護職員の平均賃金に8万円を足しても概ね等しい水準となる。その現場でリーダー級の活躍をする人材の賃金を、他の産業と比べても遜色のないレベルまで引き上げる狙いがある。

小規模で開設して間もないなど、やむを得ない事情でどうしても実現が難しい事業所には合理的な説明を求めていく − 。審議会ではそんな考えも示された。具体的にどんなケースで例外を認めるのか、厚労省は今後さらに検討を深めるとしている。年度末の通知やQ&Aなどで明らかにする方針だ。

(引用元記事より一部抜粋)

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg364.html

「年収440万円を超える人を設定・確保」とは

2019年10月1日の消費税率引き上げの財源を投じて行われる予定の「特定処遇改善加算」だが、現場では戸惑いが続いている。

その一つが「経験・技能のある介護職員のうち、月8万円の賃上げとなる人、あるいは賃上げ後に年収が440万円を超える人を設定・確保しなければいけない」との要件だ。

現行の年収が440万円に近い介護職員がいる事業所は、その他の職員への分配率を高く設定することができるが、年収が344万円以下の介護職員しかいない事業所は8万円賃上げの介護職員を設定しなくてはならず、分配率が極めて少額となる。

分かりやすい例として、月の介護保険報酬400万円の通所リハビリテーッションが「特定処遇改善加算Ⅰ(2.0%)」を算定する場合で考えてみたい。
(400万円×2.0%=80,000円)

年収400万円のリーダー職のベテラン介護職員が在籍しこの介護職員の年収を440万円にしようとする場合、不足分40万円(月に33,333円)の賃上げを行えば要件をクリアできる。

そして8万円から33,333円を引いた残りの46,667円を、16,666円を超えない範囲(ベテラン介護職員の昇給率の2倍以内)で複数のその他職員へ分配すればよい。

しかし年収が300万円のベテラン介護職員しかいない場合、その他職員への分配は難しい。
月に8万円の賃上げをして要件をクリアして「特定処遇改善加算Ⅰ」の加算分は使い果たしてしまう。

これでは該当のベテラン介護職員も、その他の介護職員も気分の良いものではない。

実際に賃上げする場合、どの程度の分配に?

次に現行の処遇改善加算Ⅰを取得している事業所の平均給与額を参考に、特定処遇改善加算Ⅰの要件を満たす賃上げ額を計算してみた。

厚生労働省の資料「平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」(*1・P15)によると、現行の処遇改善加算Ⅰを取得している事業所の介護職員の平均給与額は297,450円である。

(*1・P15)平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/18/dl/29gaiyou.pdf

これに12ヶ月を掛けて年収に換算すると3,569,400円であり、年収440万円にするには830,600円(月当たり69,216円)を賃上げしなくてはならずその他の介護職員への分配率は10,784円と少ない。

ところが勤続10年以上の介護職員の平均給与額は332,330円とあり年収に換算すると3,987,960円である。
要件の440万円まで412,040円(月あたり34,336円)ということは、1/2の17,168円を超えない範囲で45,664円をその他の職員(複数人)へ分配できる計算だ。

「特定処遇改善加算」の恩恵を受けるケースは?

これらのことから、今回の新加算「特定処遇改善加算Ⅰ」を容易に算定でき全ての職員が満足のいく結果になる事業所は、

  • 夜勤があり給与の高い施設サービス
  • 現行の「処遇改善加算Ⅰ」(*2)を算定しているこれまでにも職員のために賃金改善を地道に行ってきた
  • その結果離職率が低いため無資格の新規職員が少なく勤続年数10年以上の介護職員が多く在籍する

であると考える。

(*2)「介護職員処遇改善加算」のご案内
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000199136.pdf

これでは介護人材が増えるのではなく「特定処遇改善加算Ⅰ」を算定している事業所へ介護職員が移動するだけに留まり、介護職を魅力ある職業にするには今一つ足りない「特定処遇改善加算」となりそうだ。

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