事業主が頭を悩ます新加算「介護職員等特定処遇改善加算」の分配方法

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事業主が頭を悩ます新加算「介護職員等特定処遇改善加算」の分配方法

【介護報酬改定2019】新加算の440万円ルール、例外が認められるのはどんな場合?

月8万円の賃上げとなる人、あるいは賃上げ後に年収が440万円を超える人を設定しなければいけない(440万円ルール)− 。

今年10月に新設する「特定処遇改善加算」のこのルールについて、厚生労働省はどうしてもやむを得ない場合の例外規定を設ける方針だ。

今日に至るプロセスで何度も、「小規模な事業所で開設したばかりであるなど、設定することが困難な場合は合理的な説明を求める」とアナウンスしてきた。

こうした例外規定に該当するのは具体的にどんなケースなのか? 6日の審議会ではこれまでで最も詳しい解説がなされた。

それぞれの状況を踏まえて個別に判断していくべき、というのが厚労省の基本認識。実際に判断を行う際のポイントとしては、

○ 規模が小さいことなどで加算額全体が少額(440万円ルールが実現できない額を想定)である場合

○ 職員全体の賃金水準が低いことなどで、直ちに1人の賃金を引き上げることが困難な場合

○ 440万円ルールを適用するにあたり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力・処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合

の3点が示された。

見ての通り、まだ細部が判然としない部分も多く残されている。「職員全体の賃金水準が低い」とは? 「直ちに」とは? 「一定期間を要する」とは? 厚労省は現在、こうした要件をどこまでクリアカットに示すべきか頭を悩ませている。

ルールをギリギリと細かく定める場合、個々の実情を丁寧に汲み取った柔軟かつ丁寧な運用を難しくさせてしまう。一方でこのまま曖昧にすると、またもやローカルルールが乱立する結果を招きその弊害が大きくなりかねない。この日の会合では、双方のメリット・デメリットを指摘する声が委員からあがり方向性が見えなかった。

例外規定をどう設定するか、厚労省は年度内の通知やQ&Aで明らかにする予定。

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg385.html

介護職員等特定処遇改善加算の算定要件の明確化へ

2019年3月6日、厚生労働省は第169回社会保障審議会介護給付費分科会において介護職員等特定処遇改善加算の算定要件のルールを提案した。
まだ完全な詳細までには至っていない内容だが、少しずつ明確にしていく予定だ。(*1)

(*1)社会保障審議会介護給付費分科会1「介護人材の処遇改善について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000485525.pdf

社会保障審議会介護給付費分科会の今回の資料の「更なる処遇改善について2」の論点2、「月額8万円の改善又は役職者を除く全産業平均水準(年収440万円)」の対応案については、

○ 「小規模な事業所で開設したばかりである等、設定することが困難な場合は合理的な説明を求める」としているが、どのような場合がこの例外事由にあたるかについては、個々の実態を踏まえ個別に判断する必要があるが、

・ 小規模事業所等で加算額全体が少額である場合
・ 職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合
・ 8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力・処遇を明確
化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合
を基本とし判断することとする等、考え方の明確化を図ることを検討してはどうか。

※引用:社会保障審議会介護給付費分科会1「介護人材の処遇改善について」

とされている。これらに該当する場合には「月額8万円」や「年収440万円」ルールに準じていなくても良いとの考えだ。

また、「更なる処遇改善について3」の論点3、「勤続10年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、勤続10年の考え方については、事業所の裁量で設定できることとする」の対応案としては、

○ 経験・技能のある介護職員を設定するに当たり、「勤続10年以上の介護福祉士を基本」とするものの、「勤続10年の考え方」については、

・ 勤続年数を計算するに当たり、同一法人のみの経験でなく、他法人や医療機関等での経験等も通算できること
・ 10年以上の勤続年数を有しない者であっても、業務や技能等を勘案し対象とできること
等、事業所の裁量を認めることを検討してはどうか

※引用:社会保障審議会介護給付費分科会1「介護人材の処遇改善について」

このような提案がなされた。

ベテラン介護士数の概算を出してみると?

既に各サービス事業所の加算率は決まっているため、これらを都合の良いように網羅してみたい。

  • 他職員との賃金の差が逸脱した金額になってしまうので、「月額8万円」「年収440万円」UPの職員を選択することは先送りにする。
  • 10年以上前に介護福祉士の資格を取得後、他法人で勤務をして転職してきた勤続10年未満の者や介護士に復帰してきた優秀な介護福祉士がたくさんいるため、介護職員等定処遇改善加算を皆に基本の分配率に沿って分配をする。

私の主観は入っているものの、こうしたいと思う事業主が多いのではないだろうか。

平成元年からできた介護士資格を取得して10年が経過している者の数(第1回~20回)を計算すると、現在約493,129人である。(*2)

(*2)介護福祉士国家試験の受験者・合格者の推移
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/0000157809_1.pdf

平成27年の第4回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会参考資料3に掲載されている平成25年の介護福祉士の従事者率は55.5%(*3・P5)であり、これを参考に計算すると、介護福祉士の資格取得から10年が経過し、現在も介護士として従事している者の数は約273,686人となる。

(*3・P5)第4回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会参考資料3「介護人材の確保について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000075028.pdf

さらに、この従事者数を全国の加算該当の事業所数で割ってみる。(事業所数10,000以上の居宅介護サービス事業所と介護保険施設のみで計算)(*4)
平成29年度の時点で全国117,360事業所であり、1事業所あたりのベテラン介護士の人数は僅か0.4人という計算になる。

(*4)厚生労働省「平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/dl/kekka-gaiyou.pdf

サービス事業所毎に基準の人員規定が異なるため、本来はサービス事業所種別により偏りが出るが、平均して考えると介護福祉士の資格を持ち10年以上介護士として働いている者は1事業所に1人いない場合もあるのだと推測できる。

分配方法を十分に検討すべき加算

私が個人的に知っている3事業所に10年以上のベテラン介護士の人数を聞いてみたところ、
・特養0人 ・老健1人 ・デイケア2人であった。

そんなに少ないのかと驚いたのだが、それなら事業主も分配方法にあまり悩まずに対応できるのではないかとも思えた。

しかし該当のベテラン介護福祉士が大勢いて切磋琢磨している事業所では、1人のベテラン介護士だけの極端な賃上げをするのは難しいのではないかと考える。

同じように働いているベテラン介護士たちに不平等のないようにしたいのならば、全体の賃金を引き上げてあまり差が出ないようにする必要があると共に、介護職員等特定処遇改善加算Ⅰを算定し稼働率や他の加算算定を落とさないようにしないといけない。

それにしても事業主にとっては頭を悩ます加算である。
今回の介護職員等特定処遇改善加算は、分配方法を慎重に十分検討してからスタートしなければならない重大な加算だと改めて感じる。

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