事故に怯えず安心して介護ができる環境とは?事故発生時の管轄機関の対応は適切か

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事故に怯えず安心して介護ができる環境とは?事故発生時の管轄機関の対応は適切か

介護施設で事故死、1年で約1500人 「誤解を招く」との批判の声も

安全性を高めるための更なる努力は非常に重要だが、数字だけが1人歩きしてしまう恐れもある − 。専門家からはそんな懸念の声が続出した。

厚生労働省は14日の有識者会議で、介護施設の安全管理体制や発生した事故、その報告方法などについて調べた初の全国調査の結果(速報値)を公表した。2017年度の1年間に転倒や誤嚥などの事故で亡くなった入所者が、特別養護老人ホームと介護老人保健施設で少なくとも1547人いたと報告している。

調査は昨年10月に全1741市区町村を対象に実施された。

施設には事故が起きた際に自治体などへ報告する義務がある。今回の死亡者数は特養・老健による報告を積み上げたもの。回答した市区町村が67.3%(1173市区町村)だったほか、「何を事故として扱い報告の対象にするか?」という基準も施設によって大きく異なっているため、実際にはさらに多い可能性もある。

調査結果によると、特養では772施設で1117人が、老健では275施設で430人が事故で亡くなっていた。例えば特養について、報告すべき事故の範囲を「定めていない」と答えた市区町村は41.6%にのぼっている。

□「現場を萎縮させてしまう」

「年をとって体が衰えるとどうしても転倒や誤嚥は起きてしまう。どこまでを事故として扱うべきか、という判断は非常に難しい」

14日の有識者会議では、施設の安全性をさらに高めて利用者を守る取り組みの重要性が共有されたが、こうした指摘も相次いだ。「在宅でどれくらいの事故が起きているのか? そうした比較をせずに施設の事故だけを取り上げるのはナンセンス。誤解されないようもっと気をつけるべき」。そんな批判も噴出した。また、「数字だけが1人歩きすると現場が萎縮してしまう。リスクがあることはなるべくやらせない、という空気が支配しないよう配慮すべき。入所者の尊厳を重視したケアの実践が難しくなる」との意見も出た。

厚労省は今回の調査結果を今後の施策の展開に役立てたいとしている。専門家からは、よりきめ細かい調査の実施や報告すべき事故の範囲の統一などを求める声があがった。

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg400.html

事故を恐れて本質的な介護から遠ざかることへの懸念

2019年3月14日に行われた第17回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会において介護施設の安全管理や事故発生件数についての報告結果が公表された。(*1)

(*1)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000488392.pdf

目的は介護老人福祉施設における安全管理体制(事故発生の防止のための指針や委員会、事故の認識・把握・分析)の実態を明らかにすることなどであるが、この事故に怯える施設は多い。

自宅にいても発生する事故であるが、介護サービスの利用中に起きるとその場に居合わせた職員達は青ざめ、自信をなくす者もいる。
また、転倒しそうになった利用者をかばうために怪我をする職員や、事情を説明しても理解を得られず憤慨したまま裁判を起こすという家族もいる。
このようなことがあった事業所では事故に怯え、利用者の自立支援を妨げるような支援を行うことがある。

例えば、杖を使わずに歩行できる利用者が椅子から立ち上がろうとした瞬間に杖を渡し、杖が荷物になってしまうケース。
ベッドから自力で起き上がれるのに職員に介助を求めて甘えてしまうケース。
自由に歩きたいのに職員が必要以上に付きまとうため利用者が不穏になるケースなどである。

こうなってくると利用者が動くたびに付き添いをするため人員が足りず、本当に支援をしてもらいたい利用者が職員に声を掛けても「待って。」と言い待たせるはめになり、トイレに間に合わなかったなどということも起きる。

ADL(身体機能)を把握していても事故を未然に防ぎたい気持ちの方が強くこのような支援になってしまうのだ。

事故が起きた際は自治体に報告をするのだが…

事故が起きた場合、市町村と県に報告を入れる。
しかしこれはただの報告に過ぎない。
報告時に県の担当者から「家族へ連絡したか?」と問われ、「当事者同士で解決するように」と言われるからだ。

管轄の自治体により対応は違うだろうが、「何か困ったことがあれば相談にのります。」の一言があれば随分違うと考える。
事務的に「経過報告を忘れないように。」と言われるより、「相談にのります。」と言われた方がサービス事業所側は安心感に包まれる。

ただでさえ大切な利用者を傷つけたことに心を痛めている職員達の味方という言い方は適切ではないが、支えになる機関があっても良さそうなものだ。

事故を防ぐため常時アンテナを張る介護士たち

介護現場では、たった3m前を歩く利用者の転倒を防ぐのでさえ容易なことではない。

転倒後に行われる事故カンファレンスでは事故の原因を・状態把握ができていなかった・見守り不足・床に水滴があったなど原因を掘り下げ職員全員で共有し再発防止に努めるが、利用者の状態はある日突然変化していることも多い。

それらを常にアンテナを張って把握していく介護士は、本当に大変な業務を担っているのだと改めて感じる。

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