居宅ケアマネと福祉用具業者の負担について考察〜平成30年度介護報酬改定の効果検証を受けて

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居宅ケアマネと福祉用具業者の負担について考察〜平成30年度介護報酬改定の効果検証を受けて

福祉用具貸与の上限額、今年度の見直しは増税対応のみ 厚労省方針

昨年10月から新たに導入した福祉用具貸与の商品ごとの上限額について、厚生労働省は今年度の定期の改定を見送る方針を固めた。

今の8%から10%へ引き上げる消費増税を反映させる機械的な見直しのみ行う。新商品の上限額の設定は、今年度も3ヵ月に1回程度のペースで通常通り実施していく。社会保障審議会・介護給付費分科会の10日の会合で提案し、委員から大筋で了承を得た。

貸与価格に上限額を設けたのは、膨張を続ける給付費の適正化につなげることが狙い。「不当な高値をつける悪質な事業者がいる」といった指摘を受けたものだ。上限額は「各商品の全国平均額 + 1標準偏差」。厚労省はおおむね1年に1回の頻度で改定していくルールを決めたが、「施行後の実態を踏まえて検討していく」ともアナウンスしていた。

厚労省は先月、上限額の導入が与えた影響を探るための調査の結果を公表。高額な保険請求が完全に排除されたことが確認できたほか、74%の事業所が「収益が減少した」と回答していると報告した。商品カタログの価格修正・再印刷や事業所内のシステム改修が必要となり、経費が嵩んだところが多いことが明らかにされている。

厚労省はこれらを踏まえ、「引き続き影響を精査する必要がある」と判断。今年度は同様の調査を行い、定期の改定を見送ることにした。消費増税を機械的に反映させるのは10月から。担当者は「できるだけ早く新たな上限額を示せるようにしたい」としている。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg549.html

施設ケアマネと居宅ケアマネの負担の差が生まれる理由は?

2019年4月10日の第170回社会保障審議会介護給付費分科会において、「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」の結果が示され、今後の課題について話し合いが行われた。(*1)

(*1)社会保障審議会介護給付費分科会(第170回)議事次第
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000500363.pdf

この調査のなかに、これまでのケアマネの負担と、今後負担が増えると考えられる福祉用具業者に関する調査結果が掲載されていたので、その原因と理由について考えてみた。

まずはケアマネのアセスメント時の負担感である。
「入所者・利用者の心身状態に関する記録・評価の状況について」を見ていただきたい。(*1・P12/394~)

利用者・入所者の収集するアセスメント情報を項目ごとに分け、それぞれの記録・評価の状況と情報を収集する際の負担感について調査が行われたのだが、どの項目も施設ケアマネ(または相談員)より居宅ケアマネの方が負担感が大きいと答えている。

理由は、アセスメントする情報の収集元が異なるからだ。以下、参考までに載せておく。

【アセスメント情報の主な収集元】

既往歴
居宅ケアマネ=本人・家族・健康診断書・お薬手帳・認定調査票・主治医意見書  
施設ケアマネ=居宅ケアマネ・病院・健康診断書・お薬手帳・家族・本人

体重
居宅ケアマネ=本人・家族
施設ケアマネ=入所時に測定・病院・本人・家族

栄養状況
居宅ケアマネ=本人・家族・病院
施設ケアマネ=病院・健康診断書・お薬手帳・家族・本人・必要により入所後に血液検査実施

転倒の有無
居宅ケアマネ=本人・家族・認定調査票
施設ケアマネ=居宅ケアマネ・病院・家族・本人

アセスメント情報の収集先によって負担が異なる?

居宅ケアマネの場合、初回のアセスメント情報収集は家族や本人に聞くことが多く、記憶違いや曖昧な情報も含まれている。
また、キーパーソンである家族になかなか会えず、情報収集がしづらいということもある。

そういった中で、居宅ケアマネは家族・本人との信頼関係を築きながら、必要に応じて主治医に確認連絡をしたり、主治医意見書を取り寄せたり、家族以外の関係者から情報を得たりするので時間がかかる。

変わって施設ケアマネ(または相談員)の場合だ。施設では入所前まで自宅にいた者は居宅ケアマネが時間を費やして集めたアセスメント情報や、入所時に提出してもらう健康診断書から正確な情報を得ることができる。

また入所前まで入院していた者の場合、病院へ直接出向き情報を収集するのだ。
そして入所見学や契約時にはキーパーソンとなる家族が必ず来てくれるため、アセスメントの情報収集は容易で負担感はほとんどない。

今後は居宅や施設のケアマネたちは勿論、関係各所が誰でもアセスメントの情報収集をしやすいように、「ケアパス」(仮称)を全国レベルで展開していくことが望まれる。

介護保険の初回申請や更新時に認定調査を行うが、要介護度が表記された介護保険証を発行する際に、認定調査票と主治医の意見書を元にしたアセスメント情報が盛り込まれた「ケアパス」も同時に発行されれば、居宅ケアマネもアセスメントの情報収集が容易になると考える。

福祉用具業者を守る加算新設の必要性も

では次に、福祉用具業者の今後の負担についてである。

先に挙げた、「福祉用具貸与価格の適正化に関する調査研究事業」について見ていただきたい。(*1・P54/394~)

平成30年10月から、商品ごとの全国平均貸与価格の公表や貸与価格の上限設定に加え、毎年上限額の見直しが行われることになった福祉用具貸与であるが、「事業所の対応、経営への影響調査(事業所調査)」では、レンタルする福祉用具の取り扱い業者を変更した利用者がいることがわかった。

これまで利用者は福祉用具業者に対してこだわりはなく、ケアマネが紹介する事業所を選択することが多かったのだが、価格差が表面化したことにより「福祉用具業者を選ぶ」という概念が生まれたと考える。

またはケアマネが既存の利用者の介護費用を抑え、介護保険支給限度額内で利用できるサービスを増やしたいという目的で、福祉用具業者を変更したとも考えられる。

今後、利用者やケアマネに福祉用具を利用してもらうために、福祉用具業者は価格競争に打ち勝ち、まめな訪問などのサービスの充実を一層行っていかなくてはならないであろう。
仕入れ単価の上昇なども踏まえ、福祉用具業者を守る加算の新設も必要だと考える。

平成30年度に行われた介護報酬改定、これらの調査結果を国はどのように次へ活用していくのか期待を寄せたい。

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