社会保障改革の1つに入院日数の縮小〜諸外国に比べると日本は平均入院日数が長い?

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社会保障改革の1つに入院日数の縮小〜諸外国に比べると日本は平均入院日数が長い?

厚労相「少ない人手でも回る現場を実現」 介護施設のイノベーションに注力

10日に開催された政府の経済財政諮問会議で、根本匠厚生労働相は新たなテクノロジの活用などで介護現場の生産性を高めていく意向を重ねて示した。

利用者が増える一方で現役世代が急減する今後を見据え、「より少ない人手でも回る現場を実現することが必要」と言明した。業務の切り分けや役割分担、ロボット・センサーの適切な整備、記録アプリの活用などで介護施設のイノベーションを加速させる構想を改めて説明。健康寿命の延伸とあわせて力を注いでいく構えをみせ、「攻めの姿勢で考えていく」と強調した。

民間議員は「人手不足への対応、働き方改革の観点からも、大胆なICT、AIなどの活用に向けた規制改革を推進すべき」と主張。「センサーを活用するオランダの夜間介護の生産性は日本の3倍(*)」との知見を持ち出すなど、特に施設の夜勤配置に議論の余地があるとの認識を示している。

* 注釈で「株式会社メディヴァ・大石氏によれば、オランダでは夜間の見守り人員は40〜50人に1人であるが、日本では平均で15人に1人を配置」と解説した。

このほか麻生太郎財務相は、「今後の社会保障を取り巻く環境を考えると、必要となるサービスを効率的に提供していくことが重要な課題。保険者向けのインセンティブ施策のメリハリ強化などをしっかり進めていく必要がある」と持論を展開。「今後、給付と負担の見直しも含めた社会保障全般にわたる改革に取り組んでいかなければならない」とも述べた。

https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg547.html

「誰もがより長く元気に活躍できる社会」の実現に向けて

2019年4月10日に平成31年第5回経済財政諮問会議が開催された。
今回の会議では、社会保障改革や2040年を展望した「誰もがより長く元気に活躍できる社会」の実現に向けて話し合いがもたれた。(*1)

(*1)経済財政諮問会議(平成31年第5回)議事次第
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019/0410/shidai.pdf

また、社会保障改革の中では、諸外国と比べて高い水準にとどまる日本の病院の入院日数を縮小すべきだとした。(*2)

(*2)新経済・財政再生計画の着実な推進に向けて「社会保障制度改革」(参考資料)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019/0410/shiryo_01-2.pdf

入院日数は地域により差はあるが、日本の平均入院日数は16.8日。
アメリカやイギリスに比べ10日以上も長いことが分かる。

しかし入院日数だけで判断するのは如何なものか。
そこで、参考資料で比較していた諸外国の社会保障制度について調べてみた。

他国の社会保障制度を例に

まずアメリカでは、メディケアとメディケイドの公的健康保険制度を受けられる高齢者や障害者・特定疾患者・低所得者以外は、民間の健康保険に加入する仕組みになっている。(*3)

(*3)JCCG – アメリカにおける健康保険と医療事情
https://www.jccg.org/nowhow/28-healthcare/97-insurance

しかし、民間の健康保険に加入していない国民が2,810万人(国民の約8.8%)いる。
また、加入している者も保険のタイプやプランにより負担額が異なってくるため、入院による負担額が大きくなる前に早々に退院しようという者もいるのではないかと考える。

また、イギリスの公的健康保険制度は基本無料であるが、地域の中からかかりつけ医を決め登録して初診は必ずかかりつけ医で診察を行い、紹介状がなければ大きな公立病院では診てもらえない仕組みだ。(*4)

(*4)イギリスの医療について | ロンドン留学センター
https://www.london-ryugaku.com/hospi/

そのため患者が希望の診療科目や病院を選ぶことができない。
はじめから専門医に診てもらいたい場合は民間の病院を受診することになり費用が高額になるということだ。

基本は公的の病院で入院治療することになり、症状が落ちつけばその後は地域のかかりつけ医にバトンタッチされる流れである。
医療連携が図れているため、自宅でも安心して療養ができるのではないだろうか。

予期せぬ退院で利用者を困惑させてしまう恐れも

上記のように、国により社会保障制度に違いがあるにも関わらず、単に入院日数だけを比較して縮小するのでは困る。
最近の日本の急性期病院では、2016年の診療報酬改定の関係で、2週間で退院させてしまう傾向にある。

また、リハビリ病棟に移ったケースでは、最長180日で退院となる。
老老介護などの場合は、中重度の後遺症があると自宅へ帰っても思うような介護ができず、結果ショートステイを最大の30日間利用して入所を待ち続けるケースも見られる。

入所施設が空くまで入院というわけにはいかないだろうが、入院日数が今以上に縮小された場合、さらに同様のケースが増えると考える。
「早期に退院になるが、〇〇施設で過ごせます」というようなアナウンスがあれば安心だが、「決まりなので〇日に退院してください」というのでは利用者も家族も困ってしまうだろう。

可能な限り医療と介護の連携がスムーズに図られるようになってから、入院日数の縮小を考えていただきたい。
今後の社会保障改革、利用者や家族・介護医療現場の意見も十分に踏まえた改革になることを願う。

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